コラム

デザイン・シンキングとは?実践方法や活用例を紹介します

「新しい姿・あり方」を求めて、未知の世界にチャレンジしているのがデザイナーです。その思考法が、ビジネスにも役立つと注目されている「デザイン・シンキング(デザイン思考)」です。新商品や企業の次の戦略が見えづらい現在、デザイン・シンキングが求められるようになってきました。そのコンセプトや実践方法について見てみましょう。

デザイン・シンキングとは?

シリコンバレーに本拠地を持つIDEO(アイディオ)は、アップル(当時はアップルコンピュータ)「マッキントッシュ」の初代マウスをデザインした会社です。2000年以降、ハードウエアのデザインのみならずソフトウエアの世界にも進出し、製品開発、戦略立案などのコンサルティングまで請け負うようになりました。その根幹には、彼らの提唱するデザイン・シンキングがあります。

企業が新商品をリリースするときは、マーケットのニーズや自社のポジション、利用できる資産などを検討することから始めます。しかし、これだけでは自社の技術や目に見えるニーズの範囲でしか新製品は生まれません。

既存のマーケティングリサーチだけではないアプローチとして、人々の行動を観察し、そこから得た新しい発想を試作品(プロトタイプ)にして検証する方法があります。これがデザイン・シンキングの基本的なプロセスで、「イノベーションを生むためにある思考方法」といわれています。

なぜ今デザイン・シンキングなのか?

日本のみならず、アメリカをはじめとした先進国の多くの企業が、これまでの活動を超えた新しいビジネスのスタイルや製品・サービスの確立を求められています。

成熟した市場では、一般的なリサーチからだけでは新しいコンセプトは生まれづらくなっています。それに応えるのがデザイン・シンキングです。

企業経営やビジネスのあり方も同様で、コンサルティングファームのなかにも既存の思考枠を取り払ってクライアントに有用な提案をするために、デザイン・シンキングを取り入れている会社があります。

デザイン・シンキングの実践法

デザイン・シンキングの実践方法は、以下のプロセスを繰り返すことであるとされています。

  1. 共感する(empathize)
    観察やヒアリング、マーケティングリサーチなどによって、ユーザーの視点に共感する。
  2. 問題定義する(define)
    ユーザーニーズ(問題)を特定し、イノベーションのポイントを浮かび上がらせる。
  3. 創造する(ideate)
    ユーザーニーズに取り組むために、ブレインストーミング等でアイデア出しをする。質よりも量を優先し、どんなアイデアも否定しない。
  4. プロトタイプを作る(prototype)
    アイデアを形にして、実際に目で見て手で触れられる試作品を作る。
  5. テストをする(test)
    試作品を用いたテストを実施し、ユーザーのフィードバックを得る。
  6. 実装する(implement)
    イノベーションやソリューションで実際の生活を変える。

なかでも重要なプロセスは、「プロトタイプを作る」ことと「テストをする」ことです。これらを通じて目に見える形で評価を得る必要があります。

デザイン・シンキングの活用例

アップルのiPodは、社内開発者に加え、社外のデザイナーや心理学者、人間工学の専門家など35名のチームによって、わずか11カ月で開発されたといわれています。その第一歩は、競合製品をユーザーがどのように利用しているかの観察でした。そのなかで、CDからPCに音楽データを取り込み、さらに携帯音楽プレイヤーへと音楽データを入れる作業を手間に感じている様子が見受けられました。そこで、「聞きたい音楽をすべてポケットに入れて持ち運べる」というコンセプトのもと、2カ月間で100種類以上の試作品を作成。テストを繰り返して、iPod独自の操作性やPCとの自動同期といったアイデアが具体化されていきました。さらに、発売後もダウンロードで音楽が手に入るiTunesミュージックストアを開設したり、製品の改善を重ねたりして、ハード、ソフト、サービスの一体化を実現したのです。

身近なものにもデザイン・シンキングが活かされる可能性が

例えば、トイレットペーパーを購入して持ち帰る場面で考えてみましょう。手に提げても自転車のカゴに載せても、意外とかさばって運びづらいものです。トイレットペーパーを持ち運ぶこと自体に恥ずかしさを覚える人もいるかもしれません。

そこで解決案を可能な限り考えてみます。パッケージをスタイリッシュなデザインにする、手提げひもをつける、自転車のカゴのサイズに合わせたロール組みにするなど、ソリューションはあります。

デザイン・シンキングを本物にするには

「観察」により得たアイデアは、その背景として定量的なデータや論理性が不足する場合があります。だからといって、新しい取り組みや得られたアイデアを「前例がない」「裏付けがない」と受け入れない姿勢が、デザイン・シンキングにとっての大敵なのかもしれません。企業や事業のトップからの理解を得ることもまた、デザインシンキングを推進するうえで重要なのです。