コラム

女性活躍推進法とは?
~法解説から取組みステップまで分かりやすく全解説

1.女性活躍推進法とは

「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」とは、自らの意思で働くことを希望する女性が自身の個性・能力を十分に発揮できる社会の実現を目指して制定された法律です。職業生活において女性が活躍しやすい環境をつくることを目的に、10年間の時限立法として2016年4月に施行されました(期限は2025年度末)。

職業生活における女性の活躍に関し、女性活躍推進法では大きく以下の3つを基本原則としています。

1)女性に対する採用や昇進の機会を積極的に提供すること
2)職業生活と家庭生活を両立させるために必要な環境を整備すること
3)職業生活と家庭生活の両立は本人の意思が尊重されること

2019年5月には「改正女性活躍推進法」が成立し、2020年4月より順次施行されています。2022年4月施行の改正においては対象企業の範囲が現在よりも広がっているため、新たに対象となる企業は改正内容を確認し、施行日までに準備を進めておく必要があります。
引用:厚生労働省『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000095826.pdf

2.女性活躍推進法に関する法的動向

これまでは女性活躍推進法の概要に触れてきましたが、ここからは女性活躍推進法がどのようにしてできたか、歴史について解説します。

女性活躍推進法を考えるうえで、大きな転換期は昭和60年5月に男女雇用機会均等法のタイミングです。そこから30年が経過し平成27年になりましたが、この30年間で大きな変化がありました。平成3年には育児休業法、平成5年にパートタイム労働法、平成15年に次世代育成支援対策推進法、平成27年に女性活躍推進法が成立しました。これらの法律は、主に女性の就労環境を改善する法律として整備されています。

3.女性労働者を取り巻く環境の変化

これまでは、女性活躍推進法に関する法的な動向を解説してきましたが、これからは、男女雇用機会均等法を始め、雇用均等行政分野の法律の変遷と働く女性に関するデータから、女性労働者を取り巻く環境の変化について振り返ります。

男女雇用機会均等法制定の国内的背景として、労働市場への女性参加が大きく進んだことが理由として挙げられます。経済の高度成長期に入った昭和30年代後半以降、女性労働者数が増加を続け、昭和59年の女性雇用者数は、1,519万人となり、昭和35年の2倍になりました。

また、継続就業の意識も高まり、結婚、出産、育児期を通して働く女性も増え、女性の平均勤続年数も伸びてきました。しかし、女性に対する雇用管理については、昭和47年に勤労婦人福祉法が成立・施行され、育児休業や母性健康管理の努力義務が定められていたものの、女性を単純、補助的な業務に限定するなど、男性とは異なる取扱いを行う企業がみられました。

こうした背景には、女性には労働基準法で、時間外労働が1日2時間、1週6時間、1年150時間と制限されていたことや深夜業が原則禁止されていたなど男性と異なる法規制があるほか、社会に残る「男は仕事、女は家庭」という伝統的な男女の役割分担意識等があったことが影響していました。

一方、国際的な動きとして、昭和50年の国際婦人年、昭和54年の女子差別撤廃条約採択など、国際連合を中心とした国際的な男女の機会均等の達成に向けた動きが活発化してきました。

こうした動きを受け、日本においても、男女の地位についての不平等感が高まり、職場における男女平等の実現を求める動きが一段と強まり、その結果、昭和55年に署名した女子差別撤廃条約の批准に向け、国内法制等諸条件の整備の一環として、雇用の分野における男女の均等な機会と待遇を確保するための法的整備を行うこととなり、昭和 60 年に勤労婦人福祉法の一部改正により、男女雇用機会均等法が「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」として成立しました。

4.女性活躍推進法の概要

平成27 年女性活躍推進法成立、平成28年全面施行により女性活躍推進法では、国、地方公共団体、事業主の責務や女性の活躍の推進に関して実施すべき義務などが定められました。

301人以上の労働者を雇用する事業主については、自社の女性の活躍に関する状況把握及び課題分析を行い、それを踏まえた 数値目標を含む行動計画の策定、社内周知、公表を行うこと、行動計画を策定した旨の届出を都道府県労働局へ行うこと、女性の活躍に関する情報の公表を行うことが義務付けられ、300 人以下の労働者を雇用する事業主の場合は、それらが努力義務とされました。

また、厚生労働大臣により、行動計画を策定し、届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する状況などが優良な事業主は認定されるようになります。認定は3段階設定されており、段階に応じた認定マーク「えるぼし」を商品等や広告、名刺等に書けるようになり、女性活躍推進企業であることをアピールできるようになりました。

5.女性活躍推進の企業のメリット

認定マーク「えるぼし」を商品等や広告、名刺等に書けるようになることにより、具体的にどのようなメリットが企業に生まれるのでしょう。
メリットは主に下記2点です。

1)企業イメージの向上

認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などに付することができます。この認定マークを活用することにより、女性の活躍が進んでいる企業として、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながるなどといったメリットがあります。

2)資金調達の優遇

日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援基金」を通常よりも低金利で利用することができます。詳しくは日本政策金融公庫のホームページをご参照下さい。 https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/hatarakikata.html

6.日本における女性活躍推進の現状

これまでは女性活躍推進に取り組む企業側のメリットに触れてきましたが、ここからは日本における女性活躍推進の現状はどうなっているのでしょうか。
女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定企業は、2023年5月末の時点で、2,235社になります。


内閣府の男女共同参加局のデータによると、我が国の15歳以上人口は平成22年(2010年)にピークを迎え、それ以降緩やかに減少しているものの、15歳から64歳までの生産年齢人口は7年(1995年)をピークに減少しています。

生産年齢人口の減少に伴い、就業者数は20年以降減少してきましたが、25年から再び緩やかに増加に転じています。この背景には、人口構成の約3割を占める65歳以上の就業者が男女ともに増加していることとともに、65歳未満の女性の就業率が上昇していることが背景にあります。

24年から28年の4年間に、就業者数は170万人増加し、女性が147万人増(うち15~64歳が71万人増、65歳以上が77万人増)、男性が23万人増(うち15~64歳が73万人減、65歳以上が96万人増)となります。

生産年齢人口(15~64歳)の就業率は、近年、男女とも上昇しているが、特に女性の上昇が著しい状況です。生産年齢人口における女性の就業率の推移を見ると、男女雇用機会均等法が施行された昭和61年(1986年)は53.1%であったものの、平成28年は66.0%と、最近30年の間に約13%ポイント上昇しました。なかでも、18年から28年の10年間では7.2%ポイントの上昇、24年から28年の4年間に5.3%ポイントの上昇と、この数年の上昇幅が著しい状況です。

子育て期の25~44歳の女性の就業率については、昭和61年に57.1%、平成28年に72.7%と、この30年間に15.6%ポイント上昇したものの、30年間の上昇幅(15.6%ポイント)の半分の7.8%ポイントは18年から28年までの最近10年間の上昇によるもの、また15.6%ポイントのうち3割程度にあたる5.0%ポイントは24年から28年までの最近4年間の上昇によるものです。
引用:内閣府 男女共同参加局 第1節 働く女性の活躍の現状と課題
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html

7.2022年4月に改正された女性活躍推進法の変更内容

これまでは女性活躍推進の課題について述べましたが、2022年4月に改正された女性活躍推進法の変更内容について解説します。

1)対象範囲の拡大

女性活躍推進法では、対象となる企業に「行動計画の策定・届出」と「女性活躍状況の情報公表」が義務付けられています。現在は常時雇用する労働者が301人以上の企業に対して義務化されていますが、2022年4月からは101人以上の企業まで対象範囲が拡大されます。

また、「常時雇用する労働者」は正社員に限らず、契約社員やパート、アルバイトなども対象となるケースがあります。具体的には以下に該当する場合、正社員以外の雇用形態であっても「常時雇用する労働者」とみなされるため、注意が必要です。
①期間の定めなく雇用されている方
②一定の期間を定めて雇用され、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている方または雇入れ時から1年以上引き続き雇用されていると見込まれる方

2)女性活躍に関する情報公表の強化

常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、情報公表項目について

①職業生活に関する機会の提供に関する実績
②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績

の各区分から1項目以上(合計2項目以上)を公表する必要があります(令和2年6月1日施行)。
※常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、①②の全ての項目から1項目以上を公表する必要があります(令和4年4月1日施行)。

自社における女性の活躍状況に関する情報は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページなどで公表します。情報公表においては、おおむね年1回以上の更新と、その時点での最新数値を公表することが求められています。

3)特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設

女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方への認定(えるぼし認定)よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定を創設します。
引用:厚生労働省 女性活躍推進特設ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html

8.女性活躍推進の取り組みステップ

企業において女性活躍推進の取り組みステップを解説します。

厚生労働省のこちらの図をご覧ください。女性活躍推進法の対象企業がまず取り組む「行動計画の策定・届出」は、以下の4ステップで進めていきます。


出典:厚生労働省『女性の活躍推進企業データベース~女性活躍推進法が改正されました』
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/navi/lawinfo.html

ステップ1)女性の活躍に関する状況把握と課題分析

まずは自社の女性労働者の活躍状況について以下4つの基礎項目(必ず把握すべき項目)から把握し、どこに課題があるのか分析します。

①採用者に占める女性の割合(労働者に占める女性の割合でも代替可)
②男女の平均継続勤務年数の差異
③月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④管理職に占める女性の割合

ステップ2)行動計画の策定・社内周知・公表

課題に基づく1つ以上の数値目標を設定し、課題解決に向けた具体的な施策を「行動計画」としてA4用紙1枚程度で問題ありません。行動計画には、①計画期間、②数値目標、③取り組み内容、④取り組みの実施時期を盛り込むことが必要です。策定した行動計画はすべての労働者に周知し、外部にも公表します。
行動計画の記載例としては以下のパンフレットが参考にしてみてください。

・東京労働局『行動計画策定かんたんガイド』
・厚生労働省『女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!』

ステップ3)行動計画を策定した旨の届出

策定した行動計画は以下いずれかの方法で管轄の都道府県労働局へ提出します。
届出方法:電子申請、郵送、持参

ステップ4)取組の実施と効果の測定

数値目標の達成状況や取組の実施状況を定期的に点検・評価します。
効果測定の結果はその後の取組や計画に反映させ、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回しましょう。

9.まとめ

女性活躍推進は企業の長期的な存続のために取り組むべき内容であることがご理解いただけだと思います。これから日本人の労働人口は減ることが明らかであり、一人当たりの生産性を高めるとともに、より多様な働き方を模索していかなければならない状況にあります。

これを機に皆様の企業の女性活躍推進がどの程度進んでいるのか、点検してみてはいかがでしょうか。