コラム

VR/AR/MRが切り開く人材育成の新地平

――メーカーの製造ラインで部品組み立ての実地研修を受けている新入社員のあなたは、工作機械の異常動作に気がつきました。そこであなたはSF映画に出てくるようなヘルメットを装着し、そのゴーグルを通して機械を見つめます。すると、あなたの視界の隅には必要なマニュアルや研修ビデオが映し出され、すぐに解決方法やその関連項目を学習することができます。それで足りなければ、本社にいる専門家や研修講師を視界の片隅に呼び出し、質問をすることもできるのです――。 VR/AR/MRといった技術を活用することで、このように人材の即戦力化を支援する研修を実現できる時代が到来しています。

VR/AR/MRとは

「VR(Virtual Reality:仮想現実)」は、コンピューター・グラフィックスで作った人工的な空間に、ユーザーが実際に入り込んで活動しているように感じさせる技術で、ヘッドマウントディスプレイ(※)を着用して利用します。 ※目を覆うように頭部に装着して、立体画像などを表示する装置(ディスプレイ)。 「AR(Augmented Reality:拡張現実)」は、ユーザーの視界に仮想の情報(場面データ、イメージ、テキスト、そのほかのコミュニケーション)を重ねて表示して現実世界を拡張する技術で、スマートフォンの画面を通じて、あるいはスマートグラスを着用して利用します。 そして「MR(Mixed Reality:混合現実)」は、VRの仮想空間にAR技術を用いた情報を重ね合わせ、人の知覚を拡張する技術です。 近年、これらの技術はソフトやハードの急激な進化と低価格化を受け、一気に普及が進んでいます。

人材育成にVR/AR/MRを導入するメリット

米国ではVR/AR/MRを研修に活用し、その効果を測定する試みが進んでいます。2015年にボーイング社とアイオワ州立大学が行った調査によると、ARを研修に活用した場合、タスクを完了するまでの所要時間が約30%短縮するという成果が見られました。また、スタンフォード大学の調査では、通常の動画で学ぶよりもVRで学んだ方が、記憶の保持率が約33%高いことが明らかになっています。また、VRによってスピーチへの不安が約20%軽減されたという報告や、10人中9人の高所恐怖症がVRによって緩和できたとの報告もあります。このようなメリットが広く知られるようになり、世界的な会計事務所であるPwCの調査(2016年)によると、アメリカの製造業者の3社に1社が2018年までにVR/AR/MRを導入する意向を持っているとのことです。

点検修理業務を仮想体験する【事例紹介】

北米最大級の貨物鉄道会社BNSFは、ブレーキ装置の新たな安全基準に対応するために、VRを活用したeラーニングプログラム、「Virtual Power Brake Law」を開発しました。このプログラムでは、受講者は3D世界の中で車両のブレーキ点検・修理業務を行います。特に、さまざまな問題状況における修理を社員が本当にマスターしているかどうかの確認は、VRによって初めて実現できたことでした。このプログラムを初めとしたさまざまな安全研修を実施したところ、同社では業務上の負傷が2012年から2015年までに約17%減少したそうです。

 

大きな研修効果が期待されるMR

特にMRには、大きな研修効果が期待されています。というのも、(1)受講者を職場環境に没入させ、学びながらタスクに当たらせる(ラーニング・バイ・ドゥーイング)、(2) 個々のレベルに合わせたフォローアップを提供する(アダプティブ・ラーニング)という2つの要素を組み合わせることで、感情面にも働きかけるような楽しい体験を提供できるからです。より効果の高い人材育成の実現に向けて、VR/AR/MRの情報収集や活用方法の検討を進めておくことが重要だといえるでしょう。