コラム

ダイバーシティマネジメントとは?求められる背景と成功のポイント

近年、経済のグローバル化や女性の社会進出などの影響もあり、多様な人々が組織として成果を上げていくために、ダイバーシティマネジメントの重要性が増しています。ダイバーシティマネジメントは、さまざまな価値観や背景を持った人たちが活躍できる場を整え、その多様性を経営に活かす取り組みを意味します。本記事ではダイバーシティマネジメントの概要や重要性、成功へのポイントを解説します。

ダイバーシティマネジメントとは

「ダイバーシティマネジメント」は、あらゆるバックグラウンドを持つ人々を組織に取り込み、その多様性を活かして事業の成長と組織の強化を促進する施策を指します。ビジネスのグローバル化やSDGsへの社会的関心の高まりに伴い、現在では多くの企業や組織が導入しています。

参考:人材育成の基礎知識 第9回「ダイバーシティ」
https://www.ntthumanex.co.jp/basic/step1/diversity/

ダイバーシティマネジメントがなぜ必要なのか

なぜ今、ダイバーシティマネジメントが重要視されるのでしょうか。ここでその理由について紐解いていきます。

少子高齢化による人手不足

日本において促進されているひとつの理由は、少子高齢化による将来的な人手不足を見込んでいることです。2008年を境に日本の総人口は減少に転じており、2050年には総人口が今より2,000万人以上減ると推計されています。その結果、将来的には労働力が不足し、深刻な社会問題になるとみられています。社会保障制度を維持するためにも今まで活かしきれていなかった人材を活用する必要性が理解されるようになってきているのです。
参考:「人口減少社会「元年」は、いつか?」https://www.stat.go.jp/info/today/009.html

参考:「市町村合併の推進状況について」https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

グローバル化

人口減少で日本のマーケットが縮小する一方で、経済・社会がグローバル化しているのも重要性が増す理由です。昨今は海外進出する企業も増えています。海外で現地の人々を採用して企業活動を行うためには、日本人とは違う風習や価値観を尊重し、互いが持つ背景が異なることを理解した上で関係を築いていかなければなりません。これは顧客との関係においても同様です。グローバルにビジネスを展開する上では、国・地域ごと、加えて個人ごとに異なる顧客のさまざまなニーズを把握し、臨機応変に対応することが必要です。とはいえ、自分とは価値観の違う人のニーズを真に実感として把握することは容易ではありません。そこで多種多様な価値観を持った人材の活用が重要となるわけです。

ダイバーシティマネジメントのメリット

では、ダイバーシティマネジメントを実施することで、具体的にどのようなメリットが享受できるのでしょうか。ここでは3つの点について深堀りしていきます。

人材を確保できる

大きなメリットの1つは、人材確保に役立つことです。いろいろな背景を持った人が働きやすい環境を構築するために、在宅勤務やフレックスタイム制、時短勤務など働き方も多様化することで、従来雇用できなかった就労意欲のある人材を取り込むことができます。その中には、以前に発掘できていなかった優秀な人材が眠っているかもしれません。また多様な働き方を可能にすることで、既存社員のライフステージの変化にも対応しやすくなり、結婚や子育て、介護に伴う離職の抑制が期待できます。

自社の成長・イノベーションにつながる

異なる環境から培ったさまざま価値観を持った人材が職場に集まることで、自然と多彩なアイデアが飛び交います。その結果、均質な人材しかいない環境では生まれにくいイノベーションが起こりやすくなり、新商品・サービスの開発など事業の発展につながる動きが活発化する可能性が広がります。

また、柔軟性のある働き方を認めることで従業員のエンゲージメントの向上を促し、働くことへのモチベーションを高めることも可能です。その結果、労働生産性の向上なども見込めるでしょう。事実、米マッキンゼー社が実施した調査では、民族的多様性や性別の多様性が高い企業はそうでない企業と比べ、財務状況が良いという結果が明らかになっています。

関連:「多様性とは粘り強さと柔軟性 ダイバーシティ・マネジメントは企業にとって将来の武器」

企業の評価が上がる

ダイバーシティマネジメントを行うことは、企業の社会的評価を高めることにも役立ちます。今日の社会はSDGsの観点などから、多様性を尊重する価値観が浸透してきています。それゆえ従業員の多様性を尊重する経営を心掛けることは、時代のニーズにも即しており企業の社会的信用度を向上させることが可能です。

ダイバーシティマネジメントの注意点

実際に自社でマネジメントを実施する際に、気をつけておくべき点がいくつかあります。

第一に、価値観の相違が起因となる人間関係のトラブルが起きるリスクがあることを把握しておいた方がよいでしょう。多様な人材が働く職場では、ある人にとっては当たり前のことが、別の人にとっては理解しがたい状況が起こり得ます。誤解や意見の違いによるトラブルが生じやすくなるのです。


また、働き方が多様化することで、それぞれの従業員に対する評価や待遇を標準化することが難しくなることにも注意が必要です。ダイバーシティマネジメントを実施することで、ひとつの企業内でもオフィス勤務の社員、フルリモートの社員、時短勤務の社員などさまざまな就労形態が出てきます。このように働き方が混在する一方で、評価基準や待遇などが一律のままでは、従業員のあいだで不公平や不満が生じてしまいます。そのため、評価制度の見直しなどの対策が必要です。

そして、新しい働き方や人間関係に組織が適応するまではパフォーマンスが一時的に低下するリスクがあることも念頭に置く必要があります。これはどのような改革にも共通することですが、既存の環境に満足していた人にとっては、変化が好ましくない場合もあるでしょう。それゆえ現場の理解を得るために、ダイバーシティを推し進める意義や目的について、丁寧な説明を心がけ、中長期的な視野を持って取り組まなければなりません。

ダイバーシティマネジメント成功のポイント

前項の注意点を踏まえた上で、ダイバーシティマネジメントを成功させるためには、以下のポイントを意識しながら取り組むことが大切です。

多様な働き方ができるように制度を整備する

より多くの人材を活用するには、働き方が多様化するように制度やシステムを整備することです。例えば、子育てや介護の支援制度などがこれに当たります。また、先述のように多様な働き方に応じて、一律ではない人事評価基準を設けることが必要です。公正な評価基準が存在することで、働き方の違いによる従業員の不平不満は抑えられ、気持ちよく働けるようになります。

従業員の意見を尊重する

ダイバーシティマネジメントを推進する上で、それぞれの従業員の意見や考え方、スタイルなどを尊重する企業風土を作っていくことが大切です。互いのことを十分に理解しないまま共に過ごすことは、非常に大きな心理的ストレスにつながります。

それゆえ、価値観の違いが原因のトラブルを避けるために互いの違いを理解し、尊重する目的で社員同士がコミュニケーションを取れるように企業側から積極的に促していく必要があります。つまり、職場の心理的安全性を高めるということです。コミュニケーションを活性化し、従業員一人ひとりが尊重されていると感じられるよう、心理的安全性の高い環境を構築してください。

会社のビジョンを浸透させる

各従業員の意見や考え方を尊重するのが大事なのは確かですが、組織としての機能も維持していくためには、ビジョンや規律などを全員で共有することが重要です。従業員間だけでなく、企業と従業員の間でも価値観を尊重し合えるように、皆が共感できる共通の指針を示すことが大切です。共通の指針や目標ができることで、多様な人材が団結して業務にあたっていくことが期待できます。

まとめ

ダイバーシティマネジメントとは多様な人材を活用し、事業や組織の発展に役立てるための手法です。その成功は、多様な人材、多様な働き方が混在する環境をいかに整合的に処理できるかにかかっています。導入し浸透するまでの過程は簡単ではありませんが、経営戦略として取り組むことで中長期的にメリットが得られるようになります。