コラム

人材育成とは何か
~開発との違い・手段・計画・浸透法を総解説

1.人材育成とは

人材育成は「従業員を意図的・計画的に育てる取り組み全般」として、職種や入社年数などの違いにより属性を分け、一律の教育を行います。

人材育成と似た言葉として、人材開発という言葉があります。人材開発とは開発対象を経営資源の「人材」に焦点をあて、パフォーマンスを高めることで経営戦略の実現や経営目標の達成をしていこうという点が異なります。
つまり、人材育成は個々を対象として業務遂行を目的としているのに対して、人材開発は組織全体を対象として組織力強化を目的としているのか、という違いがあります。

2.なぜ企業に人材育成が必要なのか

企業を永続的に発展させるため

企業が人材育成を必要な理由は、人的資産を最大限効果的に活用し、企業の業績を最大化させ企業を永続的に発展させるためです。
経営資源には「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」と言われますが、「ヒト」が育たなければ、「モノ」「カネ」「情報」を産むことはありません。

早期即戦力化の育成スピードが高まっている

人材育成とは、「従業員を意図的・計画的に育てる取り組み全般」であると述べました。一昔前は、上司のやることを盗み見て覚えるという言葉もありました。教わるのではなく、従業員自ら主体的に学ぶ姿勢が求められました。この姿勢自体は昔も今も必要な姿勢と言えます。
この自ら学ぶ姿勢は国も提唱しています。
「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を経済産業省が2006年に提唱した社会人基礎力の中に、物事に進んで取り組む力として主体性が求められていることからも、普遍的に必要な力と言えます。 一方で、旧来の盗み見て覚えるには時間を要することも事実であり、今のビジネススピードでは追い付かず、早く即戦力化するために会社が率先して育成に関与する必要があります。

即戦力化の理由の1つとして、人口減少があります。こちらのグラフをご覧ください。
日本の人口は2004年をピークに減少傾向になっています。2023年に入社した社員が20年後会社の中核を担っているとすれば、2050年には人口が9,515万人という人口数が予想されています。日本人の働き手が足りない状況になります。
このような危機的な状況から政府もデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に力を入れていますが、補えない部分もあるため即戦力化を求めるのです。

引用:
平成23年2月21日 国土審議会政策部会長期展望委員会
「国土の長期展望」 中間とりまとめ 概要
https://www.mlit.go.jp/common/000135837.pdf

即戦力化の理由のもう一つは、情報量の増加です。こちらのグラフをご覧ください。

引用:
総務省 情報データ量の推移 第1部 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd131110.html

総務省がデータ量の増加を調査したデータです。2013年と2019年を比べた場合、約6倍の情報量に触れているということが言えます。
1日に触れている情報量が増えたことで、情報の処理速度や個々の意思決定のスピードを上げる必要があり、数十年前では1週間で成果を求められていた業務も、いまでは1日後の提出を求められるため、これら能力の早期強化が必要といえるでしょう。

テクノロジーを活用できる人材を育成する

対話型の人工知能ChatGPTに代表されるように高度なAI技術の進化により、テクノロジーを効果的に活用することが、労働力の補完になると考えられています。
ただし、それを活用できるかどうかは、それを操作する「ヒト」の能力に左右されます。
今後は、一部のエンジニアだけがAI技術を操るのではなく、どのような職種の人でも一定以上のITリテラシーが求められるようになります。

3.人材育成の現状と課題(従業員規模に比例して人材育成が行われる傾向)

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によれば、従業員に対して能力開発や教育訓練を行えている企業の割合を調査した際に、従業員9人以下の企業が15.5%、10-29人以下の企業が19.3%で300人以上の企業は47.4%となっています。

また、同じ調査のなかで、従業員に対する人材育成・能力開発の方針(規模別、単位:%)として、今いる人材を前提にその能力をもう一段アップできるよう能力開発を行なっているかどうかの調査に対して、従業員9人以下の企業は23.1%であることに対して、300人以上の企業は46.7%でした。
これは、従業員数に比例して人的資本に余裕が生まれ、人材育成に長期的に取り組めているということが言えます。

引用:
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)
https://www.jil.go.jp/institute/research/2021/documents/216.pdf

4.人材育成の3つの手法

人材育成には、OJT、Off-JT、自己研鑽の3つ

OJTとは、On The Job Trainingの略称であり、職場経験を通じて従業員を育成する手法です。それに対して、Off-JTとは職場以外の場所で人材育成をする手法で、企業内研修や職場見学がこれに当たります。
自己研鑽はどちらにも属さず、従業員自ら必要に応じて外部講習などを活用して学ぶことを指します。
※詳しくは、人材育成の基礎知識STEP1 第1回「人材育成の3大手法」を参照ください。https://www.ntthumanex.co.jp/basic/step1/hrd-basic/

5.人材育成施策の計画方法

これまでは、企業における人材育成の必要性や、どのような人材育成手法があるかについてみてきましたが、ここからは人材育成をどのような手順で設計するかについて解説します。

経営の期待(将来の会社の求める人物像)

まずは、将来、皆様の会社がどのような事業を行なっているのか、5年後、10年後の事業ビジョンを見直すことが肝要です。 なぜなら、将来行なっている事業をきちんと成長させられる人材が必要だからです。
いま行なっている事業が未来永劫変化しないのであれば、事業ビジョンを見直す必要はありません。しかし、そのような会社は稀だと思います。まずは5年後、10年後どのような事業が求められているのか、そこに適応できる自社の強みやリソースは何か、そしてそれらを担える・叶える人材像はどういった人か、を検討することから始めることをお勧めします。

現場の育成課題

次に、現場の育成課題をヒアリングすることをお勧めします。起きがちなこととして、経営や人事主導で人材育成に対するテーマを決め実行すると現場の育成ニーズと不一致が起き、現場からの共感が得られず上長からの動機付けができていないまま研修に参加する、ということがあります。
そうした状態を作らないためにも、現場の育成課題を把握することが必要です。
例えば、新入社員研修の見直しをする際にも、現場でヒアリングを行うなかでお客様対応の質向上が求められていることがわかったとします。そして、新入社員研修のなかで、ビジネスマナーの部分を手厚くする、お客様対応の本質を考える時間を長く変更することができれば、現場の育成課題に貢献できます。
そして、その変更した内容をぜひ現場の管理職に伝えることで、経営や人事は私たちの意見を取り入れてくれる、という協働関係が生まれます。そうなれば、新入社員研修に送り出す上長もしっかりと動機付けをして研修に送り出してくれるでしょう。
あらためて大切なことは、従業員は現場だけでも経営・人事だけでなく、全員で育てる意識を持つことが大切です。

スキルマップの作成

中長期的な経営視点と現場の短期的視点の両方の材料が集めた後は、その能力を可視化することが重要です。
職級やグレード、年次、階層といった上下の層と能力のマトリクスをつくります。職種ごとの違いと組み合わせる企業もありますので、その際は、厚生労働省の職業能力評価基準も参考にしながら作成することをお勧めします。

引用:
厚生労働省 職業能力評価基準
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001018939.pdf

 

スキルマップを作成する目的は、3つあります。

  • 経営・人事としてどのような人材がどの程度の人数必要なのかを可視化するため。
  • 現場の管理職が部下やメンバーを正しく評価し、人材育成に繋げるため。
  • 働く従業員のモチベーションを高め、次の階層や上位職ではどのような能力を身に付けることが一目瞭然になる。

上位職や他の職種がどのようなことを期待されているの、そこに必要な能力は何かがわかれば、従業員自ら主体的に能力開発を行うことができます。結果として、離職率低下に寄与できます。

人事制度との不一致が起きている場合には、この機に等級制度や評価制度の見直しをお勧めします。

コンピテンシー(行動特性)と保有能力

スキルマップを作成するうえで、大切な概念になる、保有能力とコンピテンシー(行動特性)の違いについて解説します。
皆さまが電車の中で椅子に座っているときに、体の不自由な方が目の前に立っていたとします。そのときに、保有能力としては、「体が不自由な方を認識する力」「席を譲ると声をかける力」「自ら席を譲って、自分が降りる駅まで立っている力」が必要です。この能力自体はほとんどの人が有していると思います。

ただし、実際にはどうでしょうか。寝たふりをしたり、スマートフォンを触って気づかなかったり、一声かけることにためらったりしている場面に遭遇したことはないでしょうか。能力を有しているということと、実際に席をゆずるという行動ができる、行動が発揮できているということは違うのです。

昨今、コンピテンシーを採用される企業も増えています。理由は、保有能力は減らないとする考えが大きく影響しています。コンピテンシー(行動特性)は環境において発揮できるかどうか異なります。一方、保有能力は基本的に減らないという考え方です。
例えば、昨日まで自転車に乗る能力があった人が、突然自転車に乗れなくなることは稀です。
保有能力を基準にすると、成果が出ないときにマイナスな評価をしづらくなります。
皆様の事業体に合わせて何がベストか検討されることをお勧めします。

6.人材育成を組織に浸透させる

人事評価との連動

人材育成に関する方針と長期的な育成指針をマトリクス化する有用性にお伝えしてきましたが、ここからは人事評価と人材育成をいかに連動されるかについて解説します。
人材育成は一朝一夕では成立しません。年度が変わったから社員の中身がいきなり変化するわけではありません。入社してから退職するまで地続きです。
人事制度や人材育成のスキルマップはその道標になります。その道標を効果的に活用することが求められます。
人材育成を組織に浸透させるためには、日頃の業務との繋がりを会社全体で認識することが重要であり、そのためには人事評価と人材育成が連動していなければなりません。

職場で起こりがちな評価事例として、業績成果のみで判断するということがあります。
ポイントになる、「結果」と「成果」の違いについて説明したいと思います。

結果とは、意図せずに出た良い出来事と定義します。例えば、前任の営業担当者が営業活動をしていて、自分のタイミングで売り上げが発生し、業績を達成したということ。
または、お客様の特需で計画外の売り上げがたった、という類のものです。
一方、成果とは期待する効果を意図的に狙い、その結果、良い結果が出るというものです。
結果も成果も良い結果が出たことに違いはありませんが、意図的な行動が発揮できているかどうかが違いです。これにより再現性があるかどうかが異なります。
この再現性を目的とした意図的な行動を評価することにより、従業員のモチベーションを高めることができます。所属する組織や職場でどのような行動が期待されているのか、これが明確であることがとても大切です。
これは、日頃のコミュニケーションにも通じるものであり、評価前の半年に1回、数ヶ月前に起きたお客様のやり取りを指摘されても従業員は覚えていないことがほとんどでしょう。
したがって、1年の目標、半年の目標、四半期ごとの目標、それに紐づく日頃の1on1コミュニケーションに役立てることで、評価に対する納得感が高まります。日頃からよく目にかけて良いところ・改善すべきところをフィードバックされる上司からであれば、評価の結果が思わしくなくても、納得感を持って次の期に改善しようと頑張れると思います。

7.まとめ

今回は、企業の人材育成に関して解説してきました。経営資源のなかで「ヒト」は投資対効果が最も効果が現れる時期が遅く、同じ育成を施しても得られるリターンの振れ幅が多い点も特徴です。しかし、効果的な人材育成ができていればとても強い企業体質になります。
皆様の企業の人材育成が、経営や事業ビジョンと結びついているか、求める人材像が明確で可視化できているか、日頃の人事評価と連動できているか、これを機に点検してみてはいかがでしょうか。