コラム

内発的動機付けを促す 
~外発的動機付けとの違い・促進方法を解説

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1.内発的動機づけとは?

内発的動機づけとは、報酬や評価などの外部要因の影響を受けずに、従業員一人一人の内側から湧き上がる興味・関心や向上心などによって動機づけられている状態のことを指します。
企業が成長し続けるために、従業員が会社のパーパスやビジョンに共感したり、自らの仕事にやりがいを感じたりすることが重要です。そして、人は内面からの欲求や欲望を満たすために行動に移す傾向にありますが、この内発的動機づけを組織運営にどのように活かしていくか会社全体で取り組むことが求められているでしょう。

2.内発的動機づけが企業に必要な理由

内発的動機づけがなぜ必要なのか、その主な理由は以下3点がいえます。

  • 生産性の向上
  • 人的資源の継続確保
  • 価値観の多様化に対応

生産性向上

労働生産人口は減少の一途をたどるため、今後はより限られた人員で組織成果をあげていかなければなりません。生産性を高めるためにテクノロジーの活用や業務の最適化はもちろんのこと、従業員一人ひとりの生産性を高めなければなりません。
その従業員の生産性を高めるために個々の業務遂行能力を高めることとなりますが、そのためには一人ひとりがより高いモチベーションを維持した状態で能動的に働くことが必要であり、それには内発的動機づけが必要不可欠といえるでしょう。

人的資源の継続確保

労働生産人口が減少するなか、人材の確保が充足している企業は少ないのではないでしょうか。厚生労働省による企業アンケート調査では、人材確保に係る不足感の状況について、「やや人材不足」又は「かなり人材不足」と回答した企業の割合が正従業員については 67.2%となっています。
引用:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000089606.pdf

多くの企業で人手不足は深刻な状態で、入社した従業員がいかに高いパフォーマンスを維持しながら組織に定着してもらうか、大きな課題といえるでしょう。
では、産業別の入職率と退職率がどのような比率なのかをみていきましょう。
こちらは厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査結果の概要「産業別の入職と離職」」です。


引用:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf

産業別で差はあるものの、全体的に入職率と離職率はほぼ同数字です。これは、入社した従業員と同程度の従業員が退職していることが読み取れます。雇用がうまく循環しているという捉え方もできますが、会社に定着していないという捉え方もできます。どのような従業員が離職しているかはこの数字には表れませんが、仮に離職している従業員が優秀な従業員だとすると、組織としてのパフォーマンスは減少している可能性も考えられます。
採用した従業員がいかに長い期間、高い成果を出し続けてもらうためにも、内発的動機づけを高めることは有効な手段と言えるのではないでしょうか。

価値観の多様化に対応

世代ごとに価値観がどのように異なっているか、「内閣府の社会意識に関する世論調査(令和4年12月調査)社会意識に関する世論調査」のなかで代表的な3点「社会志向か個人志向か」「国民全体の利益か個人の利益か」「現在の社会に全体として満足しているか、満足していないか」を例に価値観の変化をみてきましょう。

社会志向か個人志向か

社会志向か個人志向か、という点においては、若年層になると個人生活を重視すべきだとする考えの比率が高まっています。


引用:https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-shakai/gairyaku.pdf

国民全体の利益か個人の利益か

国民全体の利益か個人の利益かという点において、こちらは社会志向か個人志向に比べ、さらに年齢ごとの差がひらいています。


引用:https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-shakai/gairyaku.pdf

現在の社会に全体として満足しているか、それとも満足していないか

現在の社会に全体として満足しているか、それとも満足していないかという点では、年齢が低い方が満足していない傾向にあります。
調査において理由は明らかにされていませんが、子育てにかかる費用負担の増加や、入社して20代は給与が大きく上昇するタイミングではないことによる不満足要因が影響しているのではないでしょうか。
また、2008年に起きた米投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻や、2011年に発生した東日本大震災の影響を受けて、いつ何が起こるかわからない心理的な不安要素を持ち続けているために、満足できない状態になっている一因と考えられます。


引用:https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-shakai/gairyaku.pdf

3.内発的動機づけと外発的動機づけの比較

内発的動機づけが必要な社会的背景についてみてきましたが、ここからあらためて内発的動機づけについて解説します。内発的動機づけを考えるために、対比される概念として外発的動機づけとあわせてみていきましょう。

外発的動機づけ

外発的動機とは評価や賞罰、報酬、待遇などの外的要因を指します。
例えば、この仕事で成果を出せば高収入を得られる、などです。この仕事をやらないと上司に叱責されるというネガティブなものも外発的動機になります。
外発的動機は短期的な効果は大きいものの、持続性が低いことが特徴です。くわえて、給料や休みは多いほうが良いと考える従業員が多いように、「どんどん増えてもさらに欲しい」と思うようになり、上限がないということも特徴です。

内発的動機づけ

一方、内発的動機とは自分自身の興味・関心や意欲に起因するものです。例えば、今の仕事が好きであり、高い専門性を身につけるために努力をするということです。内発的動機は自ら湧き上がらせることができ、長期的に持続させることが可能です。特徴は、際限がないことと、報酬を高くするというようなコストがかからない点が挙げられます。
内発的動機づけを提唱したのはアメリカの心理学者であるエドワード・L・デシです。デシによると内発的動機づけを高めるためには「自律的」「有能感」「関係性」の3つの欲求を満たすことが必要であると提唱しました。

自律的

自律的であるということは、自己と一致した行動をするということを意味します。言い換えれば、自由に自発的に行動するということです。自律的であるとき、その人は本当にしたいことをしていると言えます。興味を持って没頭していると感じている状態とも言えます。自分から発した行動なので、それは偽りのない自分とも言えます。
繰り返しになりますが、自律的ということは自分自身の選択で行動していると心底感じられるかどうかです。それは自分が自由だと感じる心理状態であり、いわば行為が行為者の掌中にある状態と言えます。

有能感

有能感は自分自身の考えで活動できる時、それが最適な挑戦となるときにもたらされると言われています。最適な挑戦とは取るに足らないやさしいことができても有能感を感じませんし、達成に向けて努力するときにのみ有能感を感じることができると言われています。

関係性

関係性とは他者と関わっていたい、他者とより良い関係を築きたいという欲求を指します。自律的に自分だけの世界に浸ることではなく、他者の幸せに貢献できていると感じられている状態です。

内発的動機づけを高めるためには、この3つの要求全体を高めていくことが必要となります。

4.内発的動機づけの難しさ

一方で、内発的動機づけは難しいともいわれます。それは、従業員一人ひとりの個体差が大きい点にあります。言い換えれば同じような環境を与えた場合、Aさんはすごくやる気になっているけれども、Bさんはそうでもないというもの。また、上司や同僚との関係性のなかで、上司からの称賛に対する一言に対して関係性が満たされると感じる人やそうでない人がいます。
このように内発的動機づけが満たすための明確な基準がないのがとても難しい点といえるでしょう。

5.職場で内発的動機づけを促す方法

では、難しいと言われる内発的動機を高めるために職場でどのような取り組みができるでしょうか。

内発的動機を高める6手段

  • タイプ判定による、個の見える化
  • キャリア自律の促進
  • 適材適所の配置
  • 人事評価制度の見直し、連動性
  • 承認の文化
  • 心理的安全性の確保

タイプ判定による、個の見える化

人それぞれ異なる特性や価値観を理解することが大切です。
例えば、抽象的な仕事を与えられたときに、「私に任された」という気持ちで有能感が高まる人もいれば、「仕事を丸投げされたと」いう気持ちになり関係性が悪くなる人もいます。まず、従業員一人ひとりがどのような特性や価値観を持っているか理解すること、そのための見える化が効果的です。

キャリア自律の促進

自律的に物事を進めるためには、自分が決定して物事を進めている感情を持つことが大切です。そのためには、自分が将来進みたい方向と今の仕事がどのように結びついているのか、理解・納得することが重要です。

適材適所の配置

有能感を持つためには、自分の特性にあわせた仕事をすることがポイントです。決められた通りの時間に決められた作業を間違いなく行うことが求められる仕事を、大雑把な方が行うにはとても心理的な苦痛を伴います。反対に、自由に発想することが求められる仕事を、定型業務を好む方が行うにはとても心理的な苦痛を伴います。
このように、できるだけ従業員一人ひとりにあわせた業務分担や配置を行うことにより、有能感を得やすい状況を作り出すことが必要です。

人事評価制度の見直し、連動性

一定の決められた枠組みのなかで自由に考え、行動することができれば自律的に業務を行うことが可能です。そのためには、職種や役割により求められている行動や期待値が明確になっていることが重要です。従業員はそれをガイドラインに自由に考え行動することができ、結果として自己決定している感情が湧きます。
また、ガイドラインは明確だけれども上司評価がガイドラインと連動していない場合があります。例えば、ガイドラインではAが求められているが、上司評価はBが求められているとします。そうすると従業員は2つのルールを基準に行動しなければならなくなります。このようなことがないように、人事評価制度を正しく運用できるように連動性を持たせることが重要です。

承認の文化を醸成

関係性の欲求を充足させるために、承認の文化が必要です。承認することでマズローの5段階欲求の社会的欲求を満たすことができます。
良い行動をしたときに正しく承認されると、「私はこの会社にいて良い存在なのだ」と感じることができます。「このぐらいの仕事はできて当然だ」と思わずに日頃から「ありがとう」と一言感謝の言葉を添えて相手が安心な職場であること感じられるようにすることが大切です。

心理的安全性の確保

心理的安全性とは、組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した概念で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。
具体的には以下の4つの要因があると心理的安全性が低くなると言われています。

  1. 無知だと思われる不安
  2. 無能だと思われる不安
  3. 邪魔をしていると思われる不安
  4. ネガティブだと思われる不安

「こんなことも知らないのか」「こんなこともできないのか」「仕事や話の邪魔だなぁ」「否定的な発言をしているなぁ」と周囲から思われている、と自分自身が感じる心理状態です。周囲から同様の発言が直接なくても、自分自身が感じている状態なので組織風土と大きく関係します。

6.まとめ

今回は内発的動機づけについて解説いたしました。内発的動機づけは従業員一人ひとりのパフォーマンスを高め、長期的に組織で活躍するために非常に有効であると言えます。これを機会に内発的動機が高い従業員がどの程度いるのか、他の従業員と比べて何が異なるのか、点検してみてはいかがでしょうか。

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