コラム

オペレーション人材とイノベーション人材は違っていい ~お互いの考え方の違いを知る

1.はじめに ~日本企業共通の課題

今の日本の企業ではイノベーションというキーワードが飛び交っています。いかにイノベーションを起こすのか、どのようにしてイノベーション人材を育てるのか、どの企業も試行錯誤をしているのではないでしょうか。

今回は、「オペレーション人材」と「イノベーション人材」、そして企業の成長という観点から必要な人材像を整理します。今、自分の会社はどのような段階にあり、どのような人材が必要なのかを一緒に考えていきましょう。

2.求められる人材は企業の段階によって違う

以前にも紹介したボストンコンサルティングのBCGダイヤモンドというフレームワークによれば、事業は「創造期→成長期→優位性確立期→効率性追求期」と進み、効率性追求の果てにまた創造期(イノベーション)に戻るというサイクルを繰り返すとされています。

例えばアップル社を創業したスティーブ・ジョブズは会社が上場し拡大していくタイミングでアップル社を事実上追放されています(1985年)。当時アップル社はジョブズがペプシコーラから引き抜いたジョン・スカリーが社長をしていましたが、ジョブズ自身とスカリーが対立した結果、重役全員がスカリー側についてしまったことが原因でした。

しかしその後、アップルが新しいイノベーションを必要とする段階になると、再度ジョブズはアップル社に呼び戻され、最終的にCEOとしてiPodやiPhoneを世の中に出すことになります。アップル社から離れている間にもジョブズはピクサー社のCEOとして活躍し、ディズニーとともに劇場用長編映画としては世界初のフルCGアニメーション作品である『トイ・ストーリー』を作成しています。ジョブズは徹底的にイノベーション型人材なのです。

BCGダイヤモンドのフレームワークで考えれば、そんなジョブズがアップル社を一時期離れることになったのは、ある意味で当然です。会社が成長していくにはイノベーションで市場創造をしていく時期を超え、組織を作り、ルールを作り、生産体制を整え、物流網や販売網を地道に拡充していくという段階が必要であって、そういったオペレーションについてはジョブズのようなイノベーション人材は不得手であるということです。

よく「0から1を生み出す人材」、「1を10にする人材」、「10を100にする人材」、また「100を100のまま維持防衛していく人材」などともいいますが、それぞれに特徴があり、それぞれに大切なのです。イノベーション人材だけでも会社は大きくなりませんし、オペレーション人材だけでも持続的な成長はできません。今の自社がどの段階にあるのかによって求められる人材は変わってくるのです。

3.企業の成長に伴うオペレーション人材へのシフトと、その罠


創業期はどの会社もイノベーション人材が多いものです。しかし成長するにつれて規則や組織が必要となり、そういったルールに従ってきちんと事業運営を行っていくオペレーション人材が必要となってきます。一般論でいえば、移行期には銀行や大企業からOBを受け入れてルール作りなどを行うことが多いはずです。

それでは改めて、イノベーション人材とオペレーション人材はどのような違いがあるのでしょうか。あえて極端な言い方をすれば、イノベーション人材は「攻め」に強く、オペレーション人材は「守り」に強いものです。どちらが良い・悪いではなく、時と場合によるといえます。簡単なイメージを描いてみましょう。

同じ質問をしても答え方が違います。他社事例は何のためにあるか?といえば、イノベーション人材は「真似しないためにある」と答えますし、オペレーション人材は「真似するためにある」と答えるでしょう。すべきことがきちんと決まっていない状態はどうか?といえば、イノベーション人材は「何でもできる余地があってワクワクする、楽しい」と答えますし、オペレーション人材は「何をしたらよいかわからないのは不安だ」と答えるでしょう。要するに発想が違うということです。

このように書くとイノベーション人材が良くてオペレーション人材が悪いように思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。例えば電力やガス、石油など、インフラを担い安定的な供給が求められる産業や銀行など、保守的であるべき業種も多くあります。銀行員が「返ってこない可能性もあるけどいいや」と確率論的に融資を行うことなどありえませんし、あるべきでもありません。

一方で難しいことは、そういった保守的であるべきだった産業においても今の時代、イノベーションが求められているということです。あるいは、成熟社会になる中、再度「創造期」に入って新しい成長を生み出さなければいけないのに社内にはもはやイノベーション人材がいなくなってしまっているということでしょう。

4.企業の「成長戦略」にはイノベーションが必要だ

経営学者のピーター・ドラッカーは「イノベーションの欠如こそ、既存の組織が凋落する最大の原因であり、マネジメントの欠如こそ、新しい事業が失敗する最大の原因である」と言いました。それは、イノベーション人材がいなければ既存事業はいずれ衰退し、オペレーション人材がいなければ新規事業を起こしたところで立ち行かないと言い換えることができるかもしれません。

あらゆる事業は程度の差はあれ、成長期からいずれは成熟期を迎え、その後衰退していきます。繊維や鉄鋼、半導体など「産業の米」と呼ばれた基幹産業であっても時代の移り変わりとともに主役の座から降りるものです。それは今GAFAと呼ばれて華やかなIT産業も同様で、インフラ化するものの、どこかで成長は止まるでしょう。社会の全員にサービスが行き届き、一定の満足度を満たせば市場は成長しなくなります。

そのような中、企業の使命として継続的に成長していくためには「常に新しい事業を生み出していく」しかありません。収益性は「事業戦略」ですが、成長戦略は「企業戦略」なのです。収益性の高い事業を次々と増やしていくことで企業全体の成長を確保する、企業戦略なのです。

とすれば、やはり常にイノベーション人材は求められます。軌道に乗ればオペレーション人材にバトンタッチする必要はありますが、そうすれば次の新しい事業構想を考える必要があるということです。ドラッカーはイノベーションの最大の障害は「規模の大きさではなく、既存の事業であり、特に成功している事業」であるといいました。そして「既存の事業部門と起業家的な部門を一緒に」してはいけないのだと言います。企業はどうしても祖業の中に留まり、その範疇で活動してしまうものですが、成長していこうと思えば最初から、イノベーション人材が活躍できる場所を確保しておく必要があるということです。

5.まとめ ~お互いを尊敬できる組織へ

今回のテーマは、

  • オペレーション人材とイノベーション人材の違いを知ること
  • その両方の存在が企業の成長を確保すること

の2点でした。両方が対立するのではなく、お互いが役割を尊重し、敬意を払える組織となることが大切です。

「わが社には0から1を生み出せる人材がたくさんいる、ワクワクする会社だ」
「わが社は10を100にできる実践的な人材がたくさんいて、確実に社会に価値を提供できる素晴らしい会社だ」
「わが社は100を100として維持してくれる守りのスペシャリストがたくさんいる。そこからの利益で更に会社を力強く成長させることができる」

攻めも守りもしっかりと意識した組織となり、お互いがその役割の重要性を理解し合うこと。これがお互いの良さを引き出し、企業を力強く成長させていくのではないでしょうか。