コラム

中間管理職は不要か?
~グレイナーの成長モデルから考える組織の発展段階と管理レベル

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1.はじめに

中間管理職と聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。

「上と下に挟まれてなんだか大変そう」や「デジタル化が進む時代に中間管理職なんて本当に要るの?」などややネガティブな印象を持たれる方もいるかもしれません。

ただ、そうはいっても課長や係長といったポストはリーダーになっていくための重要なステップであり、チーム運営の醍醐味を味わう最初の段階でもあります。ただ、業種によってもチームメンバーによってもマネジメントのあり方が大きく変わるために、「どうやったらよいのか」が分かりにくいまま右往左往してしまうことも多いでしょう。

今回はこの悩ましい「中間管理職」のあり方や意義、またどのような管理スタイルがよいのかについて、組織論の観点から改めて検討してみましょう。

2.スパン・オブ・コントロールと分権の必要性

そもそも管理職はなぜ必要なのでしょうか。いわゆる「文鎮型組織」のようにトップ以外は皆平等、という組織ではダメなのでしょうか。

ここには人間の性質としての「認知限界」というものがあります。

ある共通の目的を達成するために人が集まって組織を作るとしても、そもそも一人が管理できる人数には限界があり、それを超えると管理が行き届かずに生産性が下がったり、ミスが増加したり、あるいはメンバーの育成ができなかったりということが起こってしまいます。この管理できる人数の限界のことを「スパン・オブ・コントロール(span of control)」という言い方をします。

スパン・オブ・コントロールの概念はもともと軍事的に使われていたものを経営の世界に導入したものです。初期にスパン・オブ・コントロールについて議論したギュリックは論文の中で「人間の手がピアノの限られた音符しか弾けないのと同じように」、人間が経営上管理できる対象は限られていると言っています。このスパン・オブ・コントロールは一般的に6人~7人と言われており、トップマネジメントが6~7人の部長を管理し、その部長がまた6~7人の課長を管理し、その課長がさらに6~7名の部下を管理する、といった形で組織が構成されていきます。

もちろんこの範囲は絶対的なものではなく、単純作業を行うだけの部署であれば10人の部下を管理することができるかもしれませんし、複雑な業務で個々の部下の属性が違う場合は5人以下になるかもしれません。また、自分自身がプレイング・マネージャーとして実務も行う必要がある場合は3名程度ではないかともいわれています。ご自身の場合は何人くらいが適正であるか、改めて考えてみると良いでしょう。

ですので、この文脈において、組織が組織として機能するためには、どうしても権限移譲・分権が必須になってくるということです。その過程で末端の現場を管理する中間管理職は必ず誕生しますし、彼らがうまく分業と調整を行うことで組織としての一体性を保つことができることになります。通常、組織はそれぞれの専門性によって分業化していきますから、その意味でも専門家集団をまとめていくための中間管理職は必要になっていきます。

3.組織のフラット化と疲弊する中間管理職

さて、とはいえ組織の階層は少ない方がコミュニケーションの複雑さはなくなります。トップと現場の距離が近いほど、いわゆる風通しがよいという雰囲気もあるでしょう。

もともと日本でも80年代後半からこうした組織のフラット化の流れはありました。グローバル化の傾向やデジタル化の中で、経営の意思決定を早くしていこうという機運が高まり、ピラミッド型組織からフラット型組織へと移行する企業も出てきます(従来5階層あった組織を3階層にすることで意思決定を早くしよう等)。また、近年でもコミュニケーション・ツールが発達する中でトップマネジメントと社員は直接つながることができるのであって、単なるメッセンジャーでしかない中間管理職は不要であるといった議論や、ティール型組織のような個々の社員に意思決定権があるような分権的な組織がよいという議論もあります。

しかし、上述のスパン・オブ・コントロールの観点からみると、こうしたフラット化は副作用をもたらします。フラット化により組織は大括りになり、結果として中間管理職であるマネージャーの管理人数が増加してしまうということです。また実際には世の中の部長の6割、課長の8割が何らかの形でプレイヤーを兼務しているといわれており、そのような中で管理人数が増大することは実際上の管理不能を引き起こしてしまうと考えられます。

よくある「中間管理職は忙しすぎて、割に合わない」というイメージがあるとすれば、こうした状況の結果だと考えられます。研究においても「(組織のフラット化は)従業員の創造性や自律性を高めることを意図したものの、結果的には重要な能力開発を阻害し、担当員はおろか、組織長である課長自身の能力開発も阻害している」と指摘されています。

このように考えていくと、もちろん情報を伝えるだけ、部下からの資料を上に上げるだけといった介在価値のない中間管理職は不要になっていくでしょうが、本来の意味である中間管理職は引き続き必要であるということになるでしょう。そもそも人間はその専門的知識においても、注げる時間やエネルギーという観点においても、それほど多くの人を有効に管理できませんし、管理すべきでもないということです。

4.管理対象の変化と組織としての成長 ~グレイナーの企業成長モデルから

では、中間管理職としてどのような管理をしていけばよいのでしょうか。

もちろん、中間管理職の仕事は狭い意味の管理だけではなく部下の育成なども含みます。ただ、ここでは組織において求められる管理のレベルには様々あり、かつ段階があるということを分解して考えていきましょう。以前このコラムでも紹介しているグレイナーの企業成長モデルを援用して、組織の発展段階に応じた整理をしたいと思います。

創業期から組織が発展していく中で、いきなり大企業のような組織を作ればよいわけではありません。それぞれの発展段階によって求められる組織のあり方があり、また次の段階におけるチャレンジもあるということが分かっています。簡単に言えば、組織は創業者のリーダーシップで成長できる段階から組織を作っていく段階、そして分権化を進める段階、本部を作って横串を通す段階、さらに強い個人がつながったチームによる協働を進める段階へと進化していきます(詳しく知りたい方は以前のコラム「組織風土改革:“全員”は変わらないと諦める勇気」をご覧ください)。

さて、上記ではスパン・オブ・コントロールの観点から組織には権限移譲と分権が必須であることを指摘してきました。そして組織としての一体性を保つためには全体との調整、即ち「管理」がセットでなければいけません。ここではグレイナーのモデルをベースに、組織の発展段階においてどのような管理が求められ、その際に管理職にはどのような要件が求められるのかを考えてみましょう。

グレイナーの成長モデルから考える組織の発展段階と管理のレベル

段階 成長ドライバー 管理対象 管理者に求められる要件
第1段階 創業者の創造性
第2段階 組織化と指揮命令 行動の管理 あるべき行動の言語化・形式化・「型」化
第3段階 権限移譲 結果の管理 部下への信頼/興味関心・コミュニケーション
第4段階 本部による調整 計画の管理 組織全体への視点
第5段階 チームによる協働 目的の管理 企業理念への理解

(1)行動の管理

組織立ってくるというのは第2段階からが主になりますが、まずは行動すべてを1から10までマネジメントしていくことから始まります。いわゆるマイクロマネジメントですが、ファストフードチェーン店のマニュアルを想像すれば分かりやすいでしょう。自由度がないので権限移譲なのか、と思われるかもしれませんが、任せているという意味では権限移譲であり分業と言えます。

ここで大切なことは、管理者としては「どういう行動を取ってほしいか」をしっかり言語化できる力が必要だということです。よく「どう教えたらよいかわからない」「何をすべきかをうまく伝えられない」というマネージャーがいますが、それは自分のノウハウや組織のノウハウを形式知化できていないということで、まずはそこから始める必要があります。部下としても「何をすればよいのか教えてほしい」や「指示してほしい」という人もいるのです。

(2)結果の管理

次の段階では、マイクロマネジメントでは組織が回らなくなり、各現場や部署に大きく権限移譲する必要が出てきます。この場合は1から10まで指示することは不可能であり、「結果」にコミットして権限移譲することになるでしょう。「この結果を出すために、自分で考えてやってくれ」ということです。ここでの難しさは、今まで任せたことがない中で任せる勇気、また任される方も「本当に自分で決めて良いのか」という不安感ということになります。そのためにも、上司と部下の間のコミュニケーション、とりわけ部下との信頼感醸成のための「お互いをよく知る」であったり、部下の不安感を取り除くためのチアリング、コーチングなどの取り組みが重要です。「部下の方のモチベーション・ポイントはどこでしょうか」「部下の方の強みはどういうときに発揮されるのでしょうか」「部下の皆さんの家族構成をごご存知でしょうか」など質問しても、なかなか答えられない上司の皆さんもいるものです。部下に任せるためにも部下のことをよく知ることが大切になるでしょう。

(3)計画の管理

結果だけの管理を進めていくと、どうしても各部署が個別最適に陥ってしまうことが分かっています。「大阪支店は治外法権だ」というようなことが起こると、組織としての分権が全体最適につながりません。この段階では「本部」という横串を介在させることで事前の調整を入れることになります。管理者に必要になるものは、自部署だけでなく全体との調整を行う全体最適の視点です。単純なチームの管理というだけではなく、全体への貢献であったり、優先順位のつけ方といった観点をチーム員にも理解させ、全体感のあるリーダーになっていく必要があるでしょう。

(4)目的の管理

ここまで組織が成長してくると、基本的な機能は備わり、個々の社員の水準感も上がってきます。業務の進め方についての型も分かっており、それなりに全体感もある組織作りができてきているはずです。この段階で更に成長しようとすれば、社員の個々人、あるいはチームそれぞれが会社のビジョンや目的に照らして何をすべきかを創り上げていく必要があります。このタイミングで管理者が行うべきことは、チームビジョンの設定であったり企業ミッションのチームへの落とし込みといった活動への意味づけとなるでしょう。各チームがそれぞれの中で何をすべきかを考え、自発的に行動を起こしていくことが望まれます。

なお、この管理の段階も発展段階と同じように順番を追うべきと考えられます。その企業におけるノウハウの形式知化ができていないのに「自由に働く」(結果のみのコミット)ということにはなりませんし、自分たちがどこまで自由に働けるのかを試さないのに計画による管理を行ってしまうと、何も考えずに計画を受け入れて対応するといった主体性に欠ける組織になりかねません。やはり組織と同じように管理のあり方もステップアップしていくべきなのでしょう。

さて、このような組織の発展段階と求められる管理のあり方をベースに中間管理職に求められる管理を考えます。中間管理職の難しいところは、現場に近いところで働いている分、部下の皆さんのモチベーションやニーズ、どんな管理をしてほしいかというのも様々だということです。そこで、組織として求められる管理のあり方と部下の皆さんが求めている管理のされ方の両軸で考えてみると良いでしょう。

■グレイナーモデルの中間管理職の管理スタイルへの応用


まずは組織としてどのレベルの管理が求められるのかが重要です。例えばまだ組織として行動の管理レベルでやっていくべき段階で部下の管理をそれ以上の水準に上げることはできません。一方、組織として目的の管理レベルで行っていく段階であっても、部下の性質上、行動まで管理してほしい、指示してほしいということはありえます。そうなると負荷も増えてくるので中間管理職としてのスパン・オブ・コントロールも小さくなってしまう可能性はありますが、それはそのチームごとに対応していくべき問題と言えるでしょう。まずは自社の組織レベル、管理レベルを確認したうえで、自分のチームの人材の水準感・部下の求める管理のされ方をベースにどのようなマネジメントをすべきかを考えていけると、ある程度の整理ができるのではないでしょうか(図における縦方向の自由度)。

5.おわりに

今回は中間管理職のあり方について、改めて組織論から考えていきました。企業として大きな物事を成し遂げるためには組織が必要となり、組織が必要である以上、中間管理職は必須となります。そしてそれはキャリアとして次のステップに進むためにも重要なリーダーシップ発揮のチャンスとなっていくでしょう。

ただ、近年は中間管理職の疲弊が強く、どうしても「なりたくない」とさけがちです。また、実際になった場合もどうしてよいかわからずに悩んでしまう方もいるでしょう。今回の考察がそういう人のための整理として役に立てばと思います。自分のマネージャースタイルはこうだ、と決めてかかるわけではなく、柔軟に周りの状況に応じて変化させていくしなやかなリーダシップに繋げていきましょう。

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