コラム

タレントマネジメントとは
~目的、重要性、システム導入失敗事例

「タレントマネジメント」の定義や目的、目標とは?

タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりをタレントと位置づけ、一人ひとりが持つ能力やスキル、経験といった情報を、採用、育成、配置、登用などの人材マネジメント全般に活用することで企業の成長につなげていく取り組みです。

タレントマネジメントの考え方には、従業員すべてをタレントと捉える考え方と特定の経営人材候補をタレントと捉える考え方がありますが、今回は従業員すべてとする捉え方について解説していきます。

タレントマネジメントの目的は、従業員一人ひとりが自身の特性や強みを活かし、企業活動において生産性を高め、より高い成果を出すことになります。
目標は企業ごと異なりますが経営戦略に結びつくことが求められるため、例えば企業活動においては、売上高の向上、新たなビジネスモデルの創出、新商品化率の向上などが、人材マネジメントにおいては、エンゲージメントの向上、離職率の低下、休職者の低減などが指標として挙げられます。

本コラムではタレントマネジメントの概念と共に、それを管理するタレントマネジメントシステムについても解説します。

なぜ「タレントマネジメント」がいま注目されているのか

タレントマネジメントの定義について解説してきましたが、なぜいまタレントマネジメントが注目されているのでしょうか。
タレントマネジメントが注目されている理由は、人的資本管理の厳格化、労働生産人口の減少、エンゲージメント向上が求められていることと言えます。

人的資本管理の厳格化

ISO30414という、2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインの誕生により、企業は人的資本管理をこれまで以上に厳格に管理することが求められています。

労働生産人口の減少

人口の推移については、こちらのグラフをご覧ください。2010年をピークに人口が減少しており、今後もさらに高齢化が予想されています。
このことからも分かるとおり、従業員をこれまで同様確保することがとても難しくなることが予想されています。従業員の採用が難しいということは、すでに働いている従業員一人ひとりの生産性をより高めることが必要です。


引用:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」1
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html

エンゲージメントの実態

とある民間企業の調査によれば、グローバル企業に比べて日本企業はエンゲージメント(ここでは、企業と深いつながりをもった関係性を指します。)がとても低いという調査結果が出ています。エンゲージメントが低いということは、働くなかで困難な状況に置かれたときに、パフォーマンスを最大化させることが困難であるということです。
それでは、エンゲージメントをどのように高めていけば良いのでしょうか。それは、従業員一人ひとりにあわせて企業が関わり方を変化させることが有効です。それにより強固な関係性を築くことができます。

企業や従業員に「タレントマネジメント」がもたらす効果

タレントマネジメントが生産性向上やエンゲージメント向上に寄与できる可能性が高いことを解説してきましたが、ここからはタレントマネジメントの効果についてより深く解説していきます。

戦略人事の実現

戦略人事とは経営戦略を達成するための人事施策を指します。タレントマネジメントによって従業員一人ひとりの生産性を最大化させることが期待できますので、戦略人事に寄与できると言えます。

公正な人事評価

公正な人事評価を行ううえでかかせないのは、絶対評価と相対評価のバランスが取れて、評価に対して被評価者の納得感が得られている状態と言えます。タレントマネジメントにより、部門間ごとに評価の甘い辛いという偏りがないことが重要です。 タレントマネジメントでは、評価に関する偏りが減る効果が期待できます。

適材適所な人員配置


一人ひとりの特性や強みが発揮できるように適材適所に配置できれば、より生産性が高く働ける人員配置が可能になります。そのためには、従業員の特性や強みを適切に評価することも重要です。
加えて、職務ごとに求められる能力要件を正しく設計することも重要です。

職務ごとに求められる能力要件の基本情報として厚生労働省が提唱する職業情報提供サイト(日本版O-NET)があります。
引用:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/

職務要件と人材の特性がマッチすることで、より生産性が高い状態で働くことができますので、職務や採用の不一致をできる限り減らすためにも、職務定義を見直してみてはいかがでしょうか。

人材育成の促進

一人ひとりの能力を正しく可視化できれば、一律の人材育成以外に一人ひとりに合わせた効果的な個別教育プログラムを提供することができます。

職務要件を設計し、それに基づく能力要件、その能力要件をどのように開発していくかが一覧化されていれば、希望する職務に対して、どのような能力を身につければ職務に就ける可能性があるのかを従業員一人ひとりが理解できていれば、主体的に学ぶことが可能になります。これにより、職務に対する透明性が生まれ、離職率の低下が期待できます。

目標管理の整備

明確な目標を持つことはとても大切です。タレントマネジメントにおける目標管理は他部門の目標達成状況の進捗が可視化されることです。これにより、他部門に対して主体的な支援をしようとする意識が醸成されることや売上高には現れないKGIやKPIを他部門が理解することが期待できます。
成果が数値指標に表しにくい管理部門や新規事業開発部においても、活動の透明性が増すことが期待できます。

タレントマネジメントのデメリット

これまでタレントマネジメントの効果を解説してきましたが、デメリットはあるのでしょうか。ここからは、タレントマネジメントのデメリットについて解説していきます。
タレントマネジメントを導入するデメリットは管理工数の増加とタレントマネジメントを管理するシステム導入費用が発生することです。
そのため、大切なことはタレントマネジメントを導入する目的、導入した後にどのような管理指標を用いて効果を追跡していくかをあらかじめ設定することが重要です。

「タレントマネジメントシステム」の導入フロー

ここまで、タレントマネジメントを導入したメリットとデメリットについて解説してきましたが、実際にタレントマネジメントを導入する際のフローは以下のとおりです。

目的を明確にする

経営戦略、人事戦略との紐付け

タレントマネジメントに限らず、新しく仕組みを取り入れる際には、導入の目的を明確にすることが重要です。流行っている、もしくは同業他社が導入しているからではなく、将来の経営戦略や戦略人事を実現するためにタレントマネジメントがどのように寄与するのかを明らかにしますことが重要です。
もし、経営戦略や人事戦略との結びつきが確認できないようでしたら、導入を見送ることも必要です。

課題を解決する

将来実現したい経営戦略や人事戦略ではなく、今現在起きている課題を解決するために、タレントマネジメントが有用か否かを検討することも必要です。
例えば、採用のミスマッチ、離職率の増加、異動後の諸問題(離職、休職、パフォーマンス低下)、上司部下間のコミュニケーションギャップ、エンゲージメントスコアの低下、管理職昇格までの年次など、すでに数値化されている定量データをどのように改善したいのか、という視点から課題を特定することも有用です。

タレントの把握

タレント(従業員)の属性情報を全て一元化します。個人情報はもとより、異動配属先やこれまでどのような業務に従事してきたか、その際の成果はどうであったかという情報も有用です。加えて個別に実施されているアセスメントの結果、上司との関係性、これまでの評価など社内で有している情報を全て一元管理します。可能であればこれまで手書きで書いたレポートを解析できるようにテキストデータ化することも効果的です。
そのデータをもとにデータ解析することで、これまで見えていなかった傾向や人材の発掘も期待できます。

タレントの採用・人材開発の構想

タレントの採用については、戦略人事とも密接に関連します。既存事業をさらに伸ばしていきたいのか、新たな事業を始める際に必要な人員を採用するのか、そのための人材要件はどのようなものであるか、こちらを洗い出します。
そこから必要な人材像を設定し、採用のPDCAを検証しながら、より精度の高い人材要件を作り上げていきます。

タレントの配置・活用

実際に期待できる人材を社内で発掘できた場合は、その職務に配置し、PDCAを検証していくことで、活躍できる人材の再現性を高めていきます。

タレントマネジメントシステム導入の失敗例

ここからは、タレントマネジメントを管理するタレントマネジメントシステムを効果的に活用できずに失敗する事例について解説します。

目的がない導入

タレントマネジメントシステムの導入自体が目的になっている場合、期待する成果を得ることはできません。
タレントマネジメントシステムはあくまで戦略人事を実現するための一つの有効なツールと捉えて目的を見失わないことが大切です。

既存の人事システムを置き換えようとする導入

これまで使用してきた人事データベースのデータをタレントマネジメントシステムに置き換えようとして導入してみたものの、タレントマネジメントシステムの拡張性が対応できず、タレントマネジメントシステムと既存の表計算システムの二重管理を余儀なくされることがないよう、既存システムとどのように融合していくか事前に十分検討することが大切です。

タレントマネジメントシステムの機能を効果的に活用できていない

タレントマネジメントシステムの導入が目的になっている場合、活用しきれない機能が盛り込まれているシステムを導入してしまうことがあります。
結果として、機能を活かしきれない管理ツールになってしまっている場合があります。そうならないためにも、あらかじめ皆様の会社で必要な機能を洗い出すこと、そしてシステムベンダーに機能を確認して、どのような目的でその機能が盛り込まれているか、活用事例も含めて確認することで、過剰な機能のシステムを導入する可能性は軽減できます。

まとめ

今回は、タレントマネジメントについて解説してきました。今後、ますます人的資本の数値管理が厳格に行われ、勘や経験以外に人事のデータ活用やDX化が求められます。そのためには、皆様の会社で点在している人事データを一元管理し、活きたデータに整え直すことが必要です。
あらためて、タレントマネジメントの導入の必要性を見直してはいかがでしょうか。