コラム

リスキリングとは
~メリット・導入ステップ・注意点を総解説

1.リスキリングとは?

リスキリングとは、2021年2月26日に経済産業省の「第2回デジタル時代の人材制作に関する検討会」で行われたリクルートワークス研究所のプレゼンテーションの中で、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と発表されました。
ここでのポイントは業務と直結するという点です。

一方、リスキリングと類似の言葉としてリカレント教育と生涯学習が挙げられます。
リスキリングが業務に直結するのに対して、リカレント教育は業務に直結しない点にあります。
リカレント教育とは英語でRecurrentと書き、直訳すると「繰り返す」「再発する」「循環する」という意味になります。厚生労働省のホームページには「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨いていくことが重要であり、このための社会人の学びリカレント教育と呼んでいる」とされています。

引用:経済産業省 リカレント教育
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html

また、生涯学習は学んだことを活かして「豊かな人生を送ること」を目的にしています。
したがって、仕事に直結している順に並べると、リスキリング、リカレント教育、生涯学習と捉える事ができます。

2.リスキリングの時代背景

リスキリングが業務に直結するスキルの獲得であることをみてきましたが、いつ頃からリスキリングという言葉が取り交わされるようになったのでしょうか。

日本では2020年頃から「リスキリング」という言葉を頻繁に見かけるようになりました。日本政府も、岸田文雄首相が第210回 臨時国会の所信表明演説の中で、「個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明するなど、リスキリングについて本格的に取り組む姿勢を明示しています。

そもそも、リスキリングという言葉が広まったのは、2018年の世界経済フォーラム年次会議(通称:ダボス会議)からと言われています。この年から3年連続で「リスキル革命」と銘打ったセッションが行われました。

また、2020年の「仕事の未来レポート」では「労働の自動化により、2025年までに8,500万人分の雇用がなくなり、9,700万人分の新しい仕事が生まれる」との予測が発表され、大きな話題になりました。

引用:世界経済フォーラム「仕事の未来レポート2020」
https://jp.weforum.org/press/2020/10/recession-and-automation-changes-our-future-of-work-but-there-are-jobs-coming-report-says/

3.リスキリングが話題になっている理由

リスキリングが政府主導で注力しているのか、その背景について解説します。
内閣官房から発表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」を見ると、この実行計画は成長と分配の好循環を目指す政府の複数年度にわたる計画である、と記されています。
つまり、リスキリングをしなければ、成長軌道に乗せることが困難であると日本政府自体が考えている、という大きな指針を掴むことが重要です。

また、リスキリングとあわせて重要視されているのは、職務給の導入、労働移動の円滑化、この3つを合わせて「三位一体の労働市場改革の指針」が策定されており、リスキリングは一過性のものではなく、日本の国力を底上げするために極めて重要な施策と捉えられています。

引用:内閣官房 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf

4.リスキリングの実態

それでは、政府が主導しているリスキリングについて、企業の取り組み状況はどの程度浸透しているかみていきましょう。

とある調査機関によると直近1年間でのリスキリングの取り組み率として、実施した企業が約4割、実施しなかったと回答した企業が約5割、わからないとの回答が約1割との結果が見られました。
そして、企業の規模別で見ますと、大企業が約6割と進んでいるもの、中堅・中小企業においては約3割の状況です。

また、リスキリングの目的をどのように設定している企業が多いか調査したところ、DXの推進と回答した企業が75%、カーボンニュートラル対応を目的とした企業が49%、イノベーションの促進を目的とした企業が37%の状況でした。

このことから、大企業においてリスキリングが浸透しつつあるのに対して、中堅中小企業ではまだまだ浸透の余地があることがわかります。
加えて、企業側もリスキリングの目的をDXにおくことで、デジタルを活用した事業変革に挑戦しようという姿勢が見られます。

5.社内でリスキリングの取り組みを行う5つのメリット

これまでは、企業におけるリスキリングの取り組み状況を見てきましたが、リスキリングを行うことで企業にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

① 業務の効率化や生産性の向上

社員がデジタルテクノロジーを有効に活用できるようになると、作業の自動化や作業工数を人ではなく、機械に置き換えることが可能になります。
作業工数が削減できれば、人間が果たすべき業務に集中することができ、ワークライフバランスの実現にも寄与できます。

② 新しいアイデアが生まれる

新たな知識やスキルが獲得することができれば、社員の視野が広がり、新しいアイデアの発想が広がります。
新規事業が拡大することで、顧客価値が高まり、売上拡大によるさらなる事業投資が可能になります。

③ 人材不足の解消。コスト削減

労働人口の減少と企業が求める人材の集中が起きていることから、欲しい人材を採用することがとても困難になっています。この状況はこれから好転することは見込めないと思います。
それでは、社外から人材を確保するだけではなく、社内にいる従業員をいかに育てていくか、ということに目を向けることも重要です。
採用コストを抑えられるメリットもありますし、社内の文化が深く理解できていて、かつ社内人脈がある従業員は社外人材より優位に立つことが多くあります。

④ 従業員満足度やエンゲージメントの向上

リスキリングが社内で浸透すると、学習したものを自社内で活用したい、という意識が芽生え、指示を待つことなく、自ら主体的に考え行動する人材が増えます。
それにより、受け身ではない能動的な姿勢から従業員満足度やエンゲージメントの向上が期待できます。

⑤ 企業文化や風土の維持

既存社員をリスキリングの対象とすることで、企業や業務内容の理解が深い人材が活躍できます。
これにより、外部人材が多く集まる組織ではなく、企業文化や会社の風土をよく理解した社員同士が繋がることで、企業文化が継承されていくことができます。
その反面、社外からの新しい考えが入らず、悪しき文化が継承される可能性もあるので、注意が必要です。

6.リスキリングを導入する3つのステップ

リスキリングのメリットを見てきましたが、ここからは具体的にどのようにリスキリングを導入すれば良いか解説します。

① 求められる知識や能力を可視化する

まず、将来どのような事業を行なっているのか、事業に関するビジョンを設定し、それに紐づく人事戦略を考えます。その人事戦略を実現するためにはどのような人材がどのくらい必要なのか検討します。
そのうえで、それらの人材にはどのような知識やスキルが必要なのか、スキルマップに落とし込みます。
このとき大切なのは、業務の深さや幅を意識的に区分けすることが重要です。これがあることで、副次効果として従業員は上の階層に上がるために、どのような能力をどの程度身につけるかがわかるので、自ら能力開発する際にも指標に活用できます。

② 知識や能力をOJT以外でどのような手法で身につけるか検討する

スキルマップができあがれば、その知識やスキルをどのような手法で身につけるか検討します。具体的に身につける方法は「社内研修」「社外研修」に分かれます。
リスキリングにおいてOJTは含まれません。なぜなら、仕事で獲得できないスキル習得がリスキリングの根幹にあるからです。

そして、社内研修に外部講師を招いたりすることもありますし、社外の専門家が主催する学習の機会に参加することも有効です。
大切なことは、スキルマップで考えた能力がどの教育コンテンツで身につけられるのか、仮説を立てることが重要です。
仮説を立てるためには、他社の評価を参考にすることや、実際に体験会で教育コンテンツを受けてみることも有効です。

③ 知識や能力がどの程度身についたか検証する

リスキリング教育を受けた後が重要です。本当に身に付けたかったスキルが身についているのか、評価や検証することが大切です。
具体的には実際に学んだことをアウトプットさせ、成果物を作らせることで、どの程度身についているか評価することが可能です。
もし、先に必要な知識・スキルを身につけている人が周囲にいれば、その人にテストを行なってもらうことも有効です。

7.リスキリングを実施する上でのポイント・注意点

リスキリングの進め方について解説してきましたが、どのような点に注意して進めれば良いか解説します。

① 学習の動機付けを行う

学習すること自体はモチベーションを下げる可能性は低いのですが、やらされ感になってしまっては、学習効果が大きく下がります。
「なぜ、あなたがいまこの教育プログラムを受けるべきなのか」ということをしっかりと説明することで、学習への動機付けができます。

② スキルを発揮する場を提供する

リスキリングで新たな知識やスキルを習得しても、発揮する場がなければ、学んだことを忘れますし、企業としては機会損失につながります。
いまの事業でスキルを発揮する機会がないのであれば、新事業に挑戦したり、学んだことを活用できるポジションを用意することが重要です。

8.リスキリングを行う従業員のメリット

企業がリスキリングを支援することで、経営に良いインパクトを与えることは述べてきましたが、リスキリングに取り組む従業員にとってどのようなメリットがあるか見ていきましょう。

①自発的に学びを行った者の方が、年収が高い傾向が見られる

これは内閣府が調査したデータになります。内容は、自発的に学びを行った者の方が、年収が高い傾向が見られるというデータになります。
「第3章 成長と分配の好循環実現に向けた家計部門の課題(第2節)」のなかで、自己啓発活動と収入の関係をみると、正規雇用者を中心に、前年1年間に自発的に学び行動をとった者の方が、とらなかった者に比べて30~40万円程度年収が高いという傾向が見てとられたとのことです。



引用:内閣府 「第3章 成長と分配の好循環実現に向けた家計部門の課題(第2節)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0207nk/n21_3_2.html

年収の多寡は、従事する産業や職業等の影響も大きいと考えられ、これらの影響を制御していない点には注意する必要がありますが、自発的な学びが業務遂行能力の向上や資格の取得等を通じて、年収の増加につながる可能性があることが示唆されています。

②自発的な学びを行った者は、仕事を通じた成長実感等が高い傾向

同じデータですが、仕事上の必要という理由で学んでいる人の割合が3-4割と最も多いものの、自ら進んで学びを行った人は、そうでない者と比較して、仕事への満足感や仕事を通じた成長実感が高く、キャリアの見通しがあると考えられています。



引用:内閣府 「第3章 成長と分配の好循環実現に向けた家計部門の課題(第2節)」
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0207nk/n21_3_2.html

9.まとめ

今回はリスキリングについて解説してきました。日本の成長戦略として政府が主導していることも述べてきましたが、リカレント教育と異なり、業務に直結するリスキリングは企業のなかでも重点施策として取り組んでいる企業も多いのではないでしょうか。 企業における経営戦略と人事戦略、それに関連する教育体系のつながりを今一度点検してみてはいかがでしょうか。