STEP1 人材育成の基礎知識

第8回 問題解決思考とは?プロセスを例を踏まえて解説

問題解決思考(手法)と論理的思考

初級管理者として経験値が上がってくると学習コンテンツとして多くの方が問題解決思考(手法)や論理的思考を学びます。この2つのコンテンツが常に同列で扱われるのは、問題解決思考(手法)を扱う場合に必ず論理的思考を発揮する必要性があるからに他なりません。

そこで今回は、問題解決思考(手法)そのものではなく、問題解決思考(手法)を下支えする論理的思考に焦点を絞り解説したいと思います。

前提として、そもそも問題解決思考とは業務における「現状」と「あるべき姿」の差分(GAP)を埋めていく行為のことを指します。この差分が所謂「問題」であり、その問題に対して解決の意思を表明することによって「課題形成」が行われます。

課題形成モデル

多くの社員は、問題が見えるとその問題を課題形成化し、「反射的」「直観的」に対策を考えようとする傾向があります。何よりも対策は日頃の実務と直結している為、仕事の経験値が上がれば上がるほど誰もが容易に検討しやすいという点がその背景にあります。

しかし管理者や育成担当者は、社員が「反射的」「直観的」に立てた対策を見過ごすわけにはいきません。そのようなスタンスでは原因が精緻に検討されず、対策そのものが的外れなものとなり、その結果、その先の成果も見込めないリスクを内包することになるからです。

そこで、「反射的」「直観的」に対策を検討することなく、地に足がついた対策へと導いてくれるのが「論理的思考」です。論理的思考を日常業務で常に意識することができれば、課題を形成している原因がどこにあるのか的確に導き出す手助けをしてくれます。勿論、的確に原因を導くことが出来れば、その先にある対策精度も格段に向上することに繋がっていくわけです。

※原因を、「要因」「真因」「問題本質」「根本原因」…など、言い方や捉え方はさまざまですが、言葉は重要ではなく、「課題を形成している原因そのものを見出すこと」が重要です。

問題解決思考(手法)の7プロセス

問題解決思考(手法)のプロセスは大きく7つのステップに分解されます。

問題解決思考(手法)

  1. 問題解決テーマ設定
  2. 課題形成(現状とあるべき姿の認識)
  3. 要因(原因)分析
  4. 真因分析
  5. 対策立案
  6. 優先順位付け
  7. アクションプラン

その中で論理的思考が最も効果を発揮するのは③の要因(原因)分析です。①と②で現状とあるべき姿の認識から埋めるべきGAPを明確にしたら、そのGAPを生み出している原因を探るわけですが、その際に重要なことは『足して100になるか』を意識することにあります。

論理的思考は数学的思考。「足して100になるか」

論理的思考と聞くと複雑な方程式を駆使して左脳をカクカク動かすイメージをもたれるかもしれませんが、正体は至ってシンプルなロジックです。原因を構成する要素の総数を「100」と捉え、まずは抜け漏れのない枠組みで分類することです。

ひとつの例をみてみましょう。

  1. 問題解決テーマ『売り上げ目標値を必達』
  2. 課題形成『目標100。現状80で20pt足りていない』
  3. 要因分析『何故、お客様は買ってくれないのか?』を要因分析

という場合、お客様属性がどのようなものかをまず考えます。これを「フレームワーク」と言います。要因分析の前に行うフレームワークによってお客様属性を「足して100」になるように分解し、その先の要因分析の抜け漏れを防ぐわけです。

例えば、「30歳以上」「25歳未満」の属性でお客様をくくった場合、25歳-29歳のゾーンが空白になり、その先の要因分析でもこの年代のお客様要因については検討すらされません。これは、お客様属性として「足して100になっていない」、つまり抜けのある状態です。

また、「男性」「女性」「家族連れ」で属性をくくった場合、男性と女性だけであればお客様属性として「足して100」を満たしていますが、そこに「家族連れ」という要素が入ることで男性と女性の要素と重なってしまい「足して100を超える」という、ダブりがある状態になってしまいます。結果として同じような要因を無駄に考える「非効率」に繋がってしまいます。

解答の一例として、「20歳未満」「20歳以上40歳未満」「40歳以上60歳未満」「60歳以上」という要素でお客様を分類すれば、お客様属性に抜けもダブりもないので「足して100」の理想的なフレームワークを作れます。その結果、フレームワークの下層にぶら下がる要因も網羅的に検討され、その先の対策立案の精度も格段に向上します。

MECE

「足して100になるか」を専門的には「MECE(ミッシー)」と言います。これはMutually Exclusive. Collectively Exhaustiveの頭文字をとったものですが、直訳すると「漏れなくダブりなく」という意味です。いずれにしても課題の要因を検討する際、これらのことを意識することによって

  1. 問題の全体を見渡すことができる
  2. 対策の精度があがり、成果も見込みやすくなる

という利点が生まれます。

要因分析を数学的思考で行わず、やみくもに対策を打ってしまうことは業務上とても不効率です。課題に対する要因が埋まった100%の区画をフレームワークできちんと区画整理し、掘り残しや二度掘りがないように思考を進めていくことによって、抜け漏れのない精度の高い議論を実現するということが論理的思考の真意だと言えます。

フレームワークのリスク

論理的思考の精度を左右するものがフレームワークであるという点はなんとなくご理解頂いたと思います。しかしフレームワークも引き出しがなければ何を当てはめればよいのか検討がつきません。そこで以下の図のように予めタイプ別にフレームワークが準備されています。

フレームワークタイプ たとえば…
二元論 ソフト・ハード/内的・外的/人的・物的
グレード 上級・中級・初級
プロセス 営業プロセス/製造プロセス
多元論 3C・4P・SWOT分析
オリジナル 状況に応じて自ら考えたフレーム

上図の場合、オリジナルフレームワーク以外は「既存フレームワーク」と言い、一般的な解釈であればすでに「足して100」の状態が担保されているものになります。既存フレームワークを使うだけでも、要因分析の精度は格段に向上します。

但し、業務において向き合う課題は千差万別なので、すべてが既存フレームワークにあてはまるわけではありません。その際、自ら考えるオリジナルフレーム(先ほどの例題で扱ったお客様属性もオリジナルフレームです)を構築することになるのですが、オリジナルフレームは自分の経験や思考レベルを超えて発想できないので、その精度が格段に落ちる点は押さえておく必要があります。

どうしてもオリジナルフレームワークで思考を巡らせる必要に駆られた場合は、出来るだけ経験の異なる複数のメンバーと共にフレームワークを検証し、その精度を評価することをお勧めします。

ここまで問題解決思考(手法)の重要な部分を司る論理的思考に焦点を当てて進めてきました。管理者・育成担当者として押さえるべき点は、論理的思考が問題解決の場面以外でも汎用的に活用できるということに尽きます。

お客様に商品をお勧めする場合であっても、上司にプレゼンテーションをする場面であっても、部下や後輩に指導をする場面であっても、論理的思考はそこに強い説得力を生み出します。日常業務の会議であっても、論理的思考が出来る人は論点を常に捉えながら合理的にその議論を進めることができます。自己内省でも勿論同じです。

育成の現場では、論理的思考法は問題解決手法の「いちツール」として掲げられることが多いですが、本来はあらゆる日常業務を効果的かつ効率的に進めることのできる万能思考であると認識した上で、部下や後輩に伝えていくスタンスが重要です。

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