STEP2 「人財」への育成企画

第3回 パフォーマンス分析とコンピテンシー

第1回第2回と、人材育成の全体像とHPIモデルについてご紹介してきました。
その中で大きなポイントとなるのがパフォーマンス分析です。
パフォーマンス分析では、現状のパフォーマンスとあるべき姿のパフォーマンスのギャップを抽出することになります。

では、どのような観点でパフォーマンスのギャップを見出せばいいのでしょうか。
一つの手段として、コンピテンシーの活用が挙げられます。
本稿では、コンピテンシーについて理解を深めていきましょう。

※HPI (Human Performance Improvement)とは…
成果を高めるためにただ研修を行うという発想ではなく、成果の成り立ちを明確にし組織の資源を適切に組み合わせて、介入策を提案・実行し、ソリューション」に導いていくためのプロセス。それらプロセスを6ステップで構成したものが、HPIモデル。 ※第1回参照

コンピテンシーとは

『コンピテンシーとは、ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因としてかかわっている個人の根源的特性、と定義される。』(出典:コンピテンシー・マネジメントの展開 ライル M.スペンサー/シグネ M.スペンサー著)

よりシンプルに定義すると、『高業績者の行動特性』、或は、『高い業績を上げている人に特徴的に見られる行動を類型化したもの』とも言えます。さらにざっくり言うと、『できる社員の行動パターン』または『行動ノウハウ』とも言えるでしょう。

コンピテンシーのなりたち

コンピテンシーの概念は、ハーバード大学の行動科学研究者であるD.C.マクレランド教授とマクバー社の研究から見出されました。

「学歴や知能レベルが同等の外交官(外務情報職員)が、なぜ開発途上国駐在期間に業績格差がつくのか?」
という調査依頼を米国国務省から受けたことから、研究が始まります。
マクレランド教授らの研究の結果、「業績の高さと学歴や知能はさほど比例することなく、高業績者にはいくつか共通の行動特性がある」ということが見出されました。この研究がコンピテンシーの始まりとされています。

コンピテンシーの『氷山モデル』

さらにマクレランド教授は人の行動の目に見える部分である「スキル、知識、態度」と、目には見えない「動機、価値観、行動特性、使命感」が存在することを見出しました。

高業績者の行動を生んでいるのは、目に映る部分だけではなく、目に見えない部分の影響が大きいことが明らかにされます。行動の目に見える部分は氷山の一角であり、実際に氷山を動かしているのはその水面下の大きな部分だという考え方です。

この考えは『氷山モデル』と呼ばれ、コンピテンシー理論の基礎となっています。

普通の成果をあげている販売担当者と安定して高業績をあげているAさんの違いを題材に『氷山モデル』とコンピテンシーの理解を深めていきましょう。

普通の成果をあげている販売担当者の目に見える顕在的な特性としては、「お客さまへの一方的な売り込み」、「商品についての通り一辺倒の表層的な知識」が見出されました。

一方、高い成果を上げているAさんの目に見える顕在的な特性としては、「共感的なコミュニケーション」、「お客さまの状況に合わせた説明」、「商品がお客さまにどう役立つのかという深い知識」が見出されました。

次に、潜在的な特性に着目してみましょう。普通の成果をあげている販売担当者の特性は、仕事の動機として「生活の為のお金を稼ぐ」、価値観として「決められたことをしっかりやる」というものが見出されました。

一方、高い成果をあげているAさんの潜在的な特性は、「お客さまの生活を豊かにする」という強い使命感、「仕事は言われたこと以上のことを行い価値を残す」という価値観が見出されました。

これらの違いが、コンピテンシーとなります。高い業績の実現には、いくつかのコンピテンシーを組み合わせることが必要です。この観点から多数あるコンピテンシーを体系的に整理し、その役割や仕事内容によって組み合わせたものを「コンピテンシーモデル」と言います。

因みに、『氷山モデル』において、顕在的な部分については後天的に開発可能な領域、潜在的な部分については後天的に開発は難しいとも言われています。

従って、潜在的な部分については採用や任用・配置時に注意深く見極めることが求められます。先ほどの販売担当者の例で言えば、「共感的なコミュニケーション」については、研修等で開発することは可能でしょうが、「お客様の生活を豊かにする」という使命感については、研修等の育成施策で一朝一夕に開発することは難しいでしょう。

パフォーマンス分析におけるコンピテンシーの活用

HPIモデルにおけるパフォーマンス分析を行う際に、期待されるパフォーマンス分析を明確にする必要がありますが、その際にコンピテンシーが設定されていると、多くのメリットがあります。

【メリット①】 網羅的な分析
分析を行う際に、必要な観点を網羅的に分析できているかどうかというのは大きなポイントとなります。コンピテンシーが設定されていると、「ハイパフォーマーの行動特性」という観点で網羅的にパフォーマンス分析を行うことが可能となります。
【メリット②】 効率的な分析
あるべき姿を必要に応じ一から描き、分析を行うとなると、膨大な時間が必要となります。一度、コンピテンシーが設定されていると、大きな環境変化が起こるまではそのコンピテンシーをベースに分析を行うことが可能となり、効率的な分析を行うことが可能となります。
【メリット③】 現実的な分析
コンピテンシーは現実に好業績をあげている社員を元に抽出するので、机上の空論的な「あるべき論」にはならず、「現実的なあるべき姿」となります。そのため、パフォーマンス分析においても、地に足のついた現実的な分析を行うことが可能となります。

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