STEP3 人材育成と企業戦略

第8回 トレンドワードを原理原則へ落とし込むことで見えること(総括)

今回の連載では7回にわたり、HR領域における「トレンドワード」を原理原則化することによって、そのエッセンスを「経営活動における各種機能(下図参照)」に対しても汎用的に転用できるのではないかという考察を行ってきました。

第8回目となる今回は、ここまでの連載で取り上げた6つのトレンドワードを一度振り返り、それぞれの記事から見出された原理原則から更なる共通点を見出してみたいと思います。

これまで取りあげてきたトレンドワード

まず、これまで取りあげてきたトレンドワードは以下の6つです。

  • 第2回:ダイバーシティ
  • 第3回:マイクロラーニング
  • 第4回:VUCA
  • 第5回:ワークライフバランス
  • 第6回:パーソナライズ学習
  • 第7回:ソーシャル・レコグニション

トレンドワードから読み解いた原理原則

それぞれのワードの意味や原理原則に至るまでのロジックについては各連載記事をご覧頂ければと思いますが、そのワードから掘り下げた原理原則については今一度、以下の一覧で整理してみましょう。

ダイバーシティ

これまでの既成概念に囚われない多様なものの見方や考え方

マイクロラーニング

時間を短くすることで目の前の物事の成果を高める力

VUCA

過去の成功の延長線に囚われない発想力や想像力

ワークライフバランス

社外活動で獲得した様々な経験値を獲得し、社内に還元できる力

パーソナライズ学習

現状を的確に見極め、対策には多様性を大いに許容するという考え方

ソーシャル・レコグニション

利害の遠い人物からの働きかけによって当事者の動機形成を強化する力

トレンドワードの背後に見える共通の時代背景

この連載を担当させて頂く中で徐々に感じるようになったことは、これらのトレンドワードを原理原則に変換していくプロセスにおいて、「トレンド」と言われる所以に共通する背景があるということでした。そしてその背景とは、皆さんもよくご存知の「働き方改革」というトレンドワードです。

働き方改革とは

働き方改革とは、その論点をどこにポジショニングするかによって解釈が変わる部分もあります。但し、政府主導で進められている国を挙げた取り組みという大局的な視座から眺めるのであれば、その最終目的は「少子高齢化によって労働人口が減っていく日本社会において如何にして国際競争力を保っていくか?」という議論でしょう。そしてそこから「柔軟な働き方」「業務の効率化による生産性向上」という2方向に議論が分かれていきます。

ここで言う「柔軟な働き方」とは、テレワークやフレックスタイムに代表される労働場所や時間の多様性のみならず、外国人労働者の受け入れ拡大や、高齢者の再雇用、高度な技術を持った新卒学生の高給採用など、労働人属性も含めた「多様性」であると言えます。一方、「業務効率拡大」とは、ノー残業デイに代表される単なる残業時間の削減ではなく、本来は同じ時間当たりの業務品質を向上させ、生産性を高める根本的な改革と定義すべきでしょう。

例えば、ホテル事業を展開する企業が、事業拡大でホテルを3年後に5拠点・5年後に8拠点・10年後に10拠点展開する。10年後のプラス2拠点は東南アジアのリゾートホテルである、という事業計画を描いていれば、そこから逆算した採用計画と育成計画をはじめて戦略として練ることが出来るわけです。

トレンドワードと「働き方改革」の関連度

では、これまでの連載でトレンドワードから導き出した原理原則と、働き方改革が示す「多様性」及び「生産性」という方向性がどのようにマッチングしているのでしょうか。主観に左右される部分はありますが、以下に示しておきたいと思います。

◎・〇の解釈を全てのワードで取り上げると散漫になるので、ここでは「B:マイクロラーニング」を代表で取り上げてみたいと思います。

「マイクロラーニング」の原理原則は、「時間を短くすることで目の前の物事の成果を高める力」でした。時間を短くするということは時代が求めている「働き方の多様性」に通ずるものがあります。限られた時間でしか働けない時短勤務の従業員であっても、時間を短くした特定の会議であればアサインすることが可能になり、より多くの観点から議論が活性化するかもしれません。あるいは、ダラダラと続く会議の時間をマイクロ化(時短)することで、より論点を絞った会議に変えられれば、その会議の生産性を高めることにも繋がります。

トレンドワードの原理原則は世の中のトレンドに収斂されていく

このように、マイクロラーニングそのものは「学びを短い時間で刻む」ということですが、その原理原則は世の中の大きなトレンドである「働き方改革」が示す「多様性」「生産性」という切り口に収斂されていきます。そしてこの考えは、強弱こそあれ他のトレンドワードにも当てはめることができます。

最後に

今回、トレンドワードを原理原則化し、そのエッセンスを抜き出すことで組織戦略の機能に取り込むことができないか、そしてその組織戦略に基づいて戦略人事を考えると一体どうなるのかといったテーマを扱ってきました。何度かの連載を重ねる中で、結果として「多様性」「生産性」というラインに収斂されていくという事が見えてきました。

今回、この8回目で連載の一区切りをつける理由の一つに、どのトレンドワードも落ちていく着地点は近しいものであり、新鮮味が弱くなってきたこともあります。ただそれはよくよく考えれば当然のことなのかもしれません。世の中の人たちにキャッチアップされるトレンドワードは当然ながら世間の大きな方向性に沿うという本質的な構造があり、更にそれを原理原則まで掘り下げることでよりエッセンシャルな要素として鮮明に認識できるということだったように思います。

世間は新しいもの好きの私たちの心を掴むべく、あたかも最先端をアピールするかのように様々な表現(トレンドワード)で私たちにアプローチしてきます。しかし究極を言えば、組織戦略にせよ人事戦略にせよ、トレンドワードに振り回されることなく、その時代の流れを生み出している根本(現在は「多様性」と「生産性」ということになります)を意識した取り組みを考えることができれば、組織としてマイナス方向には進まないということが言えそうです。

今回の連載が人材育成に携わる皆様にとって、社内の育成施策や評価制度が一過的なトレンドワードに振り回されることなく、背骨の通った普遍的で持続可能な人事施策に繋げるための一助となれば幸いです。

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